日本中を旅するアウトドアライターが紹介。野趣溢れるマニアックな8箇所の「秘湯」
旅人の心をくすぐる言葉「秘湯」。人里から離れ、山に囲まれ、美しい樹林や渓流を眺めながら、とびきりの癒やしと解放感に浸る――特に日夜、アウトドアフィールドを駆け巡り、自然に没入する旅をモットーとしている私にとっては、その魅力はひとしおです。
今回は、いろいろと日本各地を巡る中で秘湯フリークへ片足を突っ込みつつある私が、これは……!という「秘湯」を紹介していきたいと思います。
いわゆる野湯(やゆ)と呼ばれる、自噴した温泉に浴槽を設けただけ、というようなワイルドな温泉もありますが、それもご愛嬌。機会があれば、ぜひ足を運んでみてください!
ワイルドすぎる川見野湯「養老牛温泉 からまつの湯」(北海道)

北海道有数の火山地帯である、知床や阿寒摩周国立公園。至るところに温泉が湧いており、いわゆる野湯というスタイルの無料温泉が多くあります。
道東はツーリング聖地のため、旅の汗を流したいライダーが立ち寄ることも。かくいう私も自転車の旅でよく利用しました。
その中で、ちょっとマイナーながら最高のお湯だったのが「養老牛(ようろううし)温泉 からまつの湯」。裏摩周から中標津へ抜ける途中、道道505号線近くに位置しています。

驚いたのは、川のすぐそばにあり、渓流をのぞむワイルドなロケーション!そして、天然の河原石を使った浴槽です。ちょっと深いくらい、立派に作られており、肩まで浸かれます。
泉質はすべすべとした塩化物・硫酸塩泉。80℃近い源泉に川の水を足して、源泉掛け流しにしています。クセがなく、清涼感が気持ちのいいお湯です。
野湯でありながら脱衣所も完備。地元の方々に愛され、大切に守られているのが伝わってくるのも良いですね。
・名称:養老牛温泉 からまつの湯
・住所:北海道標津郡中標津町養老牛
・地図: ・アクセス:網走市街から車で約1時間半、釧路市街から車で約1時間40分
・入湯料:無料
だいたいエゾシカに会える「幌加温泉 湯元鹿の谷」(北海道)

北海道の屋根を形成する、大雪山系(たいせつざんけい)。その山麓にも数々の秘湯が育まれています。
中でも忘れられない最高のお湯が「幌加(ほろか)温泉」。昨今知名度が上がってきた絶景、タウシュベツ川橋梁の近くに位置しています。
かつてはお宿が数軒あったのですが、現在営業しているのは「湯元鹿の谷」のみ。今でも密かに秘湯マニアが足を運ぶ、知る人ぞ知る名湯です。

そんな「幌加温泉」のポイントは2つ。1つ目は、同時に3色の温泉が楽しめるということ。「ナトリューム泉」「鉄鉱泉」「カルシューム泉」を比較しながら、心ゆくまで温泉に浸かれます。
ぬくぬくのんびり入りたい人は温めのナトリューム泉、少し刺激が欲しい方は熱めの鉄鉱泉がおすすめです。

2つ目のポイントは、エゾシカとの遭遇率の高さ。露天風呂に入っていると、雑草を食べにくる鹿の姿が見られます。隔絶した北海道の秘境ならではの日常風景ですね。
・名称:幌加温泉 湯元鹿の谷
・住所:北海道河東郡上士幌町幌加
・地図: ・アクセス:帯広市街から車で約1時間40分
・日帰り入浴時間:8時~20時
・電話番号:01564-4-2163
・入湯料:500円
霊場内・総ヒバ造りの秘湯!「恐山温泉 花染の湯」(青森)

日本三大霊場の恐山。一度は足を運びたい青森県・下北半島を代表する名所ですが、その恐山の霊場内に、温泉が湧き出ていることをご存じでしょうか?
入山料を払えば、無料で温泉に入ることができます。中でも最高のお湯が「花染(はなぞめ)の湯」。境内のはずれにあるため見逃されがちですが、すばらしいお湯です。
泉質は白濁した硫黄泉。総ヒバ造りの浴槽に、源泉掛け流しのお湯がなみなみと注ぎ込み、それが美しいエメラルドグリーンの湯面を作り出していました。

綺麗な湯の花も浮き、熱めの温泉が身体を芯から暖めてくれる感じ。実直な、お湯の効能を感じられる気がします。
なお花染の湯は混浴。気になる方は、男女別で利用できる「薬師の湯」や「古滝の湯」、「冷抜の湯」を利用しましょう。日によってどちらが利用できるか変わります。
・名称:恐山温泉 花染の湯
・住所:青森県むつ市田名部
・地図: ・アクセス:むつ市街から車で約30分
・営業時間:6時~18時
・電話番号:0175-22-3825
・入湯料:無料(入山料は大人一人500円)
※10月末から4月下旬まで冬季閉山
・公式サイトURL:https://osorezan.or.jp/
深い雪山の奥にたたずむ湯治場「青荷温泉」(青森)

冬の青森を訪れたときに楽しんだ忘れられない秘湯が、「青荷(あおに)温泉」です。当日、青森は猛吹雪。観光するにしても極寒の中、巡るのは難しいということで、秘湯を訪れることにしました。
まず驚いたのは、そのアクセス。虹の湖レストハウスから自家用シャトルバスに乗り換えましたが、バスは前後輪チェーンを換装し、雪壁を横目に、雪山へ続く急勾配の道を切り開くように進んでいったのです。
到着したら、こんな場所に温泉旅館が……!というロケーション。一面白銀の雪山の中に、ポツンと宿がたたずんでいました。

青森県は湯治(とうじ、温泉に長期滞在をして心身を整えること)の文化が有名。中でもこの青荷温泉は、電波の届かない隔絶した場所で、俗世を逃れてデジタルデトックスをすることができます。
お湯はクセのない単純温泉。無色透明、無味無臭のため、誰でも好き嫌いなくサラリと浸かれます。

青荷温泉のお湯はいくつか離れに分かれているので、湯めぐりがおすすめ。冬には、その間に雪化粧をした美しい渓流の風景も楽しめます。
・名称:青荷温泉
・住所:青森県黒石市沖浦 青荷沢滝ノ上1-7
・地図: ・アクセス:黒石市街から虹の湖までバスで約40分、虹の湖で青荷温泉送迎バスに乗り換え
・電話番号:0172-54-8588
・入湯料:540円
・オススメの時期:冬
・公式サイトURL:https://www.aoninet.com/pc-index.html
時が止まったようなオンドル小屋「大深温泉」(秋田)

秋田県と岩手県の県境に位置する「八幡平(はちまんたい)」。後生掛温泉や蒸ノ湯温泉など、天然温泉が多く湧出し、八幡平温泉郷を形成しています。
メジャーなお湯も多く、マニアからは東北屈指の人気を誇りますが、私イチオシのお湯は、こぢんまりとたたずむ「大深(おおふけ)温泉」。

八幡平を貫く山岳道路、八幡平アスピーテラインの秋田側にポツンと位置するこの秘湯が、飾り気なく、大変味わい深いのです。
湯小屋は男女別。小さな浴槽に温泉がたくわえられ、白濁した青色が綺麗です。アメニティは何もなく、壁に鏡と木桶が置かれているのみ。

続いて珍しいのは、宿泊者用のオンドル小屋。なんと地熱を利用した、天然の床暖房を楽しむことができます。身体を内からほぐし、旅の疲れをじわじわ取ってくれました。
他にも湧き水が流れっぱなしのシンクや、敷地内の小地獄など、見どころも豊富。素朴な癒やしに浸りたい方におすすめです。
・名称:大深温泉
・住所:秋田県鹿角市八幡平熊沢国有林内
・地図: ・アクセス:鹿角八幡平インターチェンジから車で1時間
・営業時間:7時~18時
・電話番号:0186-31-2551
・入湯料:500円(オンドル小屋休憩2時間750円)
山岳風情に癒やされる極上野湯「燕温泉 黄金の湯」(新潟)

野湯マニアなら知らない人はいない妙高山麓の燕(つばめ)温泉。黄金の湯と河原の湯、2つのワイルドな浴槽があり、物珍しさも相まって多くの人が訪れます。
河原の湯はハイキングをしないとアクセスできない、まさに秘湯。さらに、湯温が時によってまちまちで、小さな浴槽に常にお客さんがいっぱいの混浴なので、万人受けはしません。

万人におすすめできるのは、「黄金の湯」!男女別の広々とした浴槽に、熱々のお湯がコンコンと湧き出ています。訪れたのは秋で、浴槽の上に覆いかぶさる紅葉が見事でした。
泉質は、硫黄泉・炭酸水素塩泉・硫酸塩泉の3つが組み合わさった珍しいタイプ。近年はトリプル美人湯としても知られ、女性にも人気だとか。
標高1150メートル、風情たっぷりの山中で涼しい風を感じながら、癒やしの露天風呂。この気持ち良さと開放感あふれる雰囲気は、一訪の価値ありです。
・名称:燕温泉 黄金の湯
・住所:新潟県妙高市関山6078
・地図: ・アクセス:妙高高原ICから車で約15分、駐車場に車を止めて徒歩10分
・入湯料:無料
※11月から5月は冬季閉鎖
聖徳太子ゆかりの秘境里。地元に愛される「伊自良温泉」(福井)

福井県の山中に、脳卒中に良いとされている、泉質抜群の秘湯があります。それが「伊自良(いじら)温泉」。
かつて聖徳太子とゆかりがあったと伝わる、上味見(かみあじみ)村に位置しています。訪れたときは、朝霧がとても綺麗でした。

温泉自体は内湯のみの簡素な仕様ですが、実は天然温泉を、薪ボイラーを使って温めています。お湯本来の効能に加え、遠赤外線効果も追加されているのがポイント!
ひとたび浸かるだけで、身体を芯から温めてくれます。ヌルヌルとした泉質で、美人の湯と呼ばれている効能も、しっかり堪能できました。
これほど素晴らしいお湯にもかかわらず、大人の入浴料が300円という安さにも驚き!越前大野や福井市にも近く、観光と組み合わせやすいのもうれしいところ。
・名称:伊自良温泉
・住所:福井県福井市中手町29-3
・地図: ・アクセス:大野市街から車で約20分、福井市街から車で約35分
・営業時間:10時~20時
・定休日:木曜日
・電話番号:0776-93-2040
・入湯料:300円
秘湯中の秘湯。白山山麓の「大白川露天風呂」(岐阜)

最後に紹介したいのは、筆者イチオシの秘湯「大白川露天風呂」。場所は、日本三大霊山・白山の南山麓、白水湖の湖畔に位置しています。
まず第一の特徴は、その隔絶したロケーション。国道156号線との分岐から約13.5キロメートル、一番近い都市・飛騨高山市街から73キロメートルも離れているのです。
一番近い町が世界遺産・白川郷というだけでも、その秘境っぷりはわかってもらえると思います。

浴槽は男女別でそれぞれ一つの、露天風呂だけ。泉質は、透明ですべすべとした塩化物泉硫黄泉です。湯温は40℃ほどと快適で、ゆったりとお湯に浸かることができます。
ポイントは、エメラルドグリーンの白水湖を見渡す、この唯一無二のロケーション!浴槽の先には、霊峰育む広大な自然が広がっています。
自然へ身を投じるような、プライスレスな入浴体験。これこそ秘湯の醍醐味だと再認識させてくれる、筆者の一番好きな温泉です。
・名称:大白川露天風呂
・住所:岐阜県大野郡白川村平瀬大白川
・地図: ・アクセス:飛騨白川から車で30分、白川郷合掌造りから車で1時間
・営業時間:8時半~17時(夏季18時まで)
・入湯料:350円
※6月上旬~10月下旬頃まで冬季閉鎖
日本の素晴らしさを再発見できる「秘湯」の旅

今回は、秘湯という切り口からアウトドアの旅をご紹介してみました。
混浴であること、ワイルドな浴槽、アクセス……確かにハードルが高いように感じるところも多いですが、ひとたび訪れたら、その魅力に取り憑かれてしまう野趣溢れる入浴体験ができます。

日常から離れ、見知らぬ地の自然の中で、一人温まる時間。鳥のさえずりや渓流の音、四季折々表情を変えていく森。吹き抜ける涼しい風。
疲れているときこそ、「また仕事を頑張ろう!」とパワーチャージをさせてくれる、かけがえのない場所です。まずは自分の住んでいる地域の近くにある秘湯を探して訪れてみてはいかがでしょうか?
All photos by Yuhei Tonosho