【山旅実践編】上高地から北アルプス奥地へ!紅葉の「涸沢カール」でキャンプ泊登山
「日本一の紅葉」と言われたとき、あなたは真っ先にどこを思い浮かべるでしょうか?私たち登山愛好家の中では、北アルプスの「涸沢(からさわ)カール」だという方が多くいらっしゃいます。

氷河の浸食によってえぐり取られた圏谷には、目を疑ってしまうほどに美しい極彩色のカーテン。ナナカマドにダケカンバ、高山帯の植生と神々しい岩塊が織りなす、絵画のような絶景が広がります。
そんな、この世のものとは思えない楽園には、上高地から徒歩6時間半。北アルプスの山中であるため、紅葉は一足早く9月下旬から10月上旬です。
今回は山旅の実践編として、かつて訪れた涸沢カール1泊2日を振り返ってみます。
早朝に上高地を出発!錦秋の明神を仰ぎ見る

涸沢カールへのスタート地点は「上高地」。全国から多くの観光客が訪れる上高地ですが、実は登山愛好家の間では、北アルプスの山々へのメジャーな登山口だったりします。
平湯温泉近くの「あかんだな駐車場」に車を停めたら、上高地行きのバスへ乗り換え。バスは早朝5時から登山客で賑わっていました。
バスを降りたら、北アルプスの核心部・穂高連峰がお目見え。早朝は霧が出ていましたが、くっきりとした青空も迎えてくれます。朝の清々しさとともに、さあ登山へ出発です!

涸沢カールの標高は約2300メートル。上高地が標高約1500メートルのため、約800メートル上がりました。前半はひたすら、梓川に沿って、静かで風光明媚なハイキングルートを進んでいきます。
基本的に樹林帯の中を歩きますが、ふと左手に現れるのは穂高の前衛峰「明神岳」。急峻な山容を見せるこの山は、一般の登山道がなくアルペンクライマー向け。

かつて上高地に入る車道(釜トンネル)がなかった時代には、徳本峠という旧道を使って上高地へ入山するのが一般的でした。その際、峠を越えてまず目にするのが、この「明神岳」です。
10月初旬、圧倒的な存在感を誇る岩塊は、紅葉の彩衣を纏っていました。「きっと昔の登山者も、この明神岳に心打たれながら、北アルプス奥地を目指したのだろう」……先人に思いを重ねながら、ゆっくりと歩みを進めていきます。
変化に富んだ登山。ふと妖精が舞い降りる

標高差はありながら、全体的にゆったりとした行程。そのため、登山者は思い思いのペースで進みます。川のせせらぎや鳥の声、樹林帯を照らす木漏れ日や、倒木に繁茂する苔。
ささやかな癒やしで溢れ、都会の喧騒から隔絶した世界。自然に身を投じることの心地よさに浸っていると、目の前には一寸の光が!まるで妖精が舞い降りたかのような緑のスポットライト。その刹那を写真に収めることができました。

道中には、明神館や徳沢ロッジ、横尾山荘などといった山小屋も点在しているので、定期的に一息つくことができます。名物グルメをいただくのも、登山の楽しみ方の一つ。特に、徳沢ロッジのソフトクリームは、生乳の甘さがじんわりとくる絶品です。
秋が深まりつつある北アルプスでも、まだまだ暑い10月。水分補給をしつつ、体調管理をしっかりと!テントやシュラフは重く、肩への負担がかかるので、何度もバックパックを下ろしながら休憩します。

徳沢から横尾までの区間では、穂高連峰の「北穂高岳」を望みます。北穂高岳は、日本に数えるほどしかない3000メートル峰の一つ。山肌中腹を埋め尽くすダイナミックな紅葉が見事です!
上高地の紅葉はまだ、この区間の登山道は色づき始め、標高2000メートル以上は紅葉最盛期。「自分は今まさに、季節の狭間にいる」――この時期の山旅でしか得られない、四季を旅する臨場感がたまりません。

登山スタートから3時間〜4時間。横尾にたどり着くと、一度吊り橋を渡ります。コンコンと流れる清流、跳ねるように水しぶきが上がるこの場所は、極上のマイナスイオンで満ち溢れていました。
思わず川辺に近寄り、顔をバシャバシャと洗います。この気持ち良さといったら……!風が吹くと、最高に涼しく、キーンと爽やか。クールダウンを経て、いよいよ涸沢の核心部へ。
辿り着くと、そこは紅葉の彩り。念願の「涸沢カール」

横尾を過ぎ、Sガレと呼ばれるポイントから、少し傾斜が出てきます。事実上、登りらしい登りはここだけ。息を整えながら進み、ふと辺りを見渡せば、そこはもう紅葉の中。
青空を背景に、鮮烈な真紅のナナカマド。圏谷一帯がオレンジ色に染め上がります。紅葉の隙間から見えるのは、涸沢カールのテント場。ゴールは近いと、無意識に歩みが速くなります。

色彩の窓に覗くのは、穂高連峰の主峰にして、日本百名山の「奥穂高岳」。標高は日本第3位の3190メートル。鎧のごとき威風堂々とした岩塊は、多くのアルピニストの憧れです。
今日は大勝利の快晴!日本屈指の山々と紅葉のコラボレーションを眺める山行とは、なんて贅沢なのだろう。山へ行くたびに、「日頃の行いをきっと神様も見ているのだ」と思わざるを得ません。

そしてスタートから6時間弱、とうとう念願の「涸沢カール」へと到着!最後は、多くの登山者が数珠繋ぎになって何かの巡礼のようになっていましたが、その理由がわかりました。

それこそ一年でこの季節にしか見られない”天空の紅葉”。標高3000メートル級の峰々が一面、極彩色の衣を纏っています。赤に黄色、そして緑で織られた芸術作品は、溜め息が出るほど、果てしなく美しい。
涸沢ヒュッテに辿りついた登山者たちは、みな達成感を噛みしめながら、目の前の絶景に耽っていました。「時に人智を超える、自然の神秘に浸れる」。 登山とは、日常生活では身を潜めた、飽くなき冒険心を解放してくれるアクティビティです。
ザイテングラードからいざ、標高3000メートルの「涸沢岳」へ

「涸沢カール」は、最短でも1泊2日で訪れる場所です。厳密には日帰りも不可能ではありませんが、それを行う人はまったくいません。なぜなら体力的に厳しく、そしてこんな素晴らしい場所を日帰りで訪れるのはもったいないから。
とはいえ、お昼過ぎに到着した私たちには、まだ半日もあります。テントの中で過ごすにはちょっと長すぎる!ということで、急遽登山を続けることに。目の前に見えている3000メートル峰に登ります。

そのため標高差が1500メートル以上、標準タイム10時間オーバーと一気にクレイジーな内容になりましたが、そのおかげで筆舌に尽くしがたい絶景に出会うことができました。
核心部のザイテングラードへ足をかけたとき、ふと涸沢テント場に目をやると、そこにはスポットライトのような光が。紅葉が主役だったはずなのに、カラフルなテントが逆転した瞬間でした。
この写真は「夏のYAMAPフォトコンテスト」で入選をいただきました。忘れられない山との一期一会こそ、いつだって山に通う理由です。

氷河圏谷を一気に登り切ると180度のパノラマ!屏風のコルから奥にたたずむのは、白亜の鎧がかっこいい百名山「常念岳」。
燃えるような山肌絶景を横目に、隔絶した世界へ向けてもう一段ギアが上げていきます。

「ザイテングラード」は、奥穂高岳・涸沢岳の鞍部にある奥穂高山荘へ続く岩稜ルート。ドイツ語で「支尾根」や「側稜」を意味します。
危ないルートではないものの、近年は山岳事故が相次いでいることもあり、緊張感があります。集中力が切れてくる後半でも油断せず、一歩一歩確実に進みました。

奥穂高岳を目指そうと思ったものの、タイムオーバー。そして霧の中だったので、「涸沢岳」へ。しかし、この山も標高3110メートル。「初日で、ここまで来れるんだ!?」と、また一つ自分の殻を破った一日となりました。
最高の仲間と、達成感を味わえて、本当に自分は幸せ者だ!
アルプスの山中ならではの「非日常の絶景」に出会う

山の夜は静かで孤独。しかし、今回の山行では温かみがありました。その理由は、このテント夜景。涸沢カールの紅葉を求めて訪れた登山者たちのテントで、視界が埋め尽くされています。
人がいるだけでどこか安心。皆で非日常を共有している感覚。しかしながら、それでいて山岳情緒を堪能できます。満天の星空とともに、床に就きました。

そして朝、テントの中が少し明るくなって、自然と目が覚めます。区切られた時間とはかけ離れた山の世界では、体内時計が自然と働いてくれました。
テントを開けてもぞもぞと外に出てみると、目の前には例えようもない光景が!朝日により、紅葉の彩度が一層引き上げられていたのです。

「モルゲンロート」とは、山脈が朝日で赤く染まる現象。東の空から一筋の赤い光が、幻想的に山へ照射し続けます。氷河圏谷の全容を照らし出すまで、うっとりと眺めていました。
「涸沢カール」で1泊しなければ、見ることのできない絶景。これこそテントを担いで多くの登山愛好家が、この地を訪れるモチベーションです。

テントを撤収しながら、「涸沢カール」の景色を再び。快晴の空の下に望む紅葉も美しいですが、雲によって生まれる明暗も一興。
流れる雲によって、幾重にも変わっていく表情が印象的でした。
霞纏う「屏風のコル」。幻想的な涸沢カールの光景が!

いつまでもゆっくりしていたいところですが、そろそろ下山。名残惜しく「涸沢カール」を振り返りながら、往路とは異なる「屏風の耳」経由のパノラマルートで上高地を目指します。

ルートの前半は、急斜面を進むトラバース。少し危ないように見えますが、ロープなども設置され、まるでアスレチックといった感じ!
森林浴を楽しめるハイキングルートもいいですが、程よくスリルが感じられ、景色変化があるコースこそ登山の醍醐味だと思います。

2日目は時折、霧が立ち込め、隔絶した山岳情緒をより引き立ててくれました。屏風の耳の手前で見た穂高連峰は、霧と一体になって円形を呈し、大迫力の存在感。放射状の霧が、まさに神仙の世界を思わせます。

屏風の耳の山頂周辺は濃霧に包まれていましたが、待つこと約15分。なんと、次第に霧が流れ流れて、涸沢カールまで突き抜ける絶景が!パッチワークの彩りが渓谷全体に溢れかえっています。
山の世界でしか見られない大スケールで展開する紅葉。他の登山者の方たちと、この束の間の展望を共有しました。
訪れるタイミングで、味わえる景色も変わる。山の難しさでもありますが、大きな魅力でもあります!
秋から夏へ再び。充実した山行の余韻に浸る

屏風の耳からは、上高地までロングルートを下山。落ち着いた道のりですが、さすがに疲れがずっしりきます。そしてなんとか、梓川にかかる「本谷橋」まで。
「やっと戻って来たぁ〜〜〜!」このときの安堵感は、何度味わってもたまりません。また緑たぎる夏の世界に戻ってきました。

上高地のハイキングコースを歩いて、河童橋に戻ります。川のせせらぎと森林浴が気持ちいい!お腹いっぱいご馳走を食べた後、さらりとした〆を味わっているような満足感です。

そして「河童橋」が見えると、一気に達成感が込み上げます!これで往復30キロメートル以上を踏破。いやあ、1泊2日だったけれど本当に濃く、充実していました。
一生に一度は来たいと思っていた場所を制覇すると、同時に、また次に歩いてみたい場所がすぐさま頭をよぎるのが不思議です。
登山とは終わりのない冒険なのかもしれません。自然との一期一会を渇望させてくれる、そんな刺激的な時間のために、また仕事と向き合う日常に戻ります。
All photos by Yuhei Tonosho