停電も水不足も頻繁に起こる「キューバ」に私が惹かれる理由
昨年アメリカとの国交が半世紀ぶりに回復し、今年に入ってアメリカ・オバマ大統領訪問、ローリングストーンズのコンサート開催、シャネルのファッションショー開催と、止まっていた時計の針が一気に動き出した国・キューバ。
そんなキューバを昨年5月に訪れてキューバの虜になった筆者が、さらにキューバを知るためにキューバに留学経験のある、日本人ラテンシンガーでダンスのインストラクターもされているAya Sagarra(アヤ サガーラ)さんに話を聞いてきました。
Ayaさん(写真左)は、2011年1月から2013年5月までの2年5か月、音楽とダンスの勉強のためにキューバ・ハバナに留学し、今は夫であり、キューバ音楽デュオ「Ex corde」のパートナーであるキューバ人のYaxell(ジャセル)さんと子どもの3人で日本で暮らしています。そんなAyaさんにキューバに住んだ日本人だからこそわかる、キューバの魅力を語ってもらいました。
photo by Aya Sagarra
地球の裏側で起こったことまで心配するキューバ人
――ずばり、留学してみて分かったキューバの魅力とは何でしょうか?
Aya Sagarraさん(以下 Aya):人が温かいことですね。私が留学したばかりの2011年3月、キューバにいる時に日本では東日本大震災が起きました。キューバ人にとっては地球の反対側での出来事のはずなのに、私が日本人だとわかると「家族は大丈夫?」「日本は大変だね」とみんながすごく心配してくれたんです。留学中、困っていると幾度となく助けてくれたキューバの人たちですが、そんなところにも人の温かさを感じました。
――確かに人が温かいことは、筆者がキューバに行った時にもとても印象的でした。他にも「人」にまつわる印象的なエピソードはありますか?
Aya:キューバで長距離バスに乗った時のことです。ハバナからサンティアゴ・デ・クーバの移動で現地の人しか乗らない長距離バスに乗ったのですが、バスは中国製のバスで、車内は赤ちゃんからお年寄りまで乗って満員。
そんなバスで約16時間移動したのですが、途中で1歳にも満たない赤ちゃんが泣きだしてしまうんです。新米ママは満員の車内でどうすることもできず、あたふたしていると、周りの人たちが協力して赤ちゃんを泣き止まそうとしたのです。
男性が子供を笑わそうとしたり、離れた席からおばさんが出てきて子供をあやしたりして、みんなの力で子供が泣き止むと車内が歓声に包まれました。新米ママのピンチに、みんなで助け合う姿が非常に印象的でした。
そんな助け合いが根付いているキューバでは「子供は国の宝」という考えが浸透し、みんなで育てる習慣があるそうです。
時間が止まったからこそ生まれた「奇跡の街並み」
photo by pixta
――そんなキューバの見所はなんでしょう?
Aya:スペイン統治時代に建てられたスペイン調の建物が立ち並び、レトロなアメ車が今も走る「街並み」ですね。半世紀以上前から時間が止まっていて、建物も車も色あせています。ですが、そこに暮らす人々は助け合いながら楽しく過ごしている。そのギャップも見所だと思います。
時間が止まったからこそ生まれた「奇跡の街並み」が、キューバにはあります。そんなキューバはアメリカとの国交正常化で変わりつつあります。この景色がこれからずっと見られるのかどうかはわかりませんね。
――キューバ音楽を聞くのにオススメのスポットはありますか?
photo by Aya Sagarra
Aya:私は留学中、キューバ第2の都市・サンティアゴ・デ・クーバにも滞在していたのですが、その街のライブハウス、カサ・デ・ラ・トローバ(Casa de La Trova)というライブハウスが一番おすすめです。サンティアゴ・デ・クーバはソンというサルサの元になったジャンルが生まれた土地です。カサ・デ・ラ・トローバでは毎日日替わりで地元のミュージシャンが演奏し、昼間から深夜まで営業しています。
ちなみに、毎年3月サンティアゴ・デ・クーバでは、フェスティバル・デ・ラ・トローバ(トローバ国際音楽祭)が開催されます。ソンやトローバを聞きに行くなら、絶対に行った方がいいです。このフェスティバルには、地元だけでなく海外で活躍しているミュージシャンも集まり、街中が音楽で盛り上がります。
キューバに行くときに注意すべきこと
photo by pixta
――キューバに女性一人で行ってみて、治安はどうでしたか?
Aya:決して良いということはありませんが、悪くもないと思います。なるべく危ない場所には行かないように用心していたこともあり、怖い思いもしませんでした。ただ、騙されて悔しい思いをしたことがあります。
キューバの生活が慣れ始めた頃、街行く人に「ライブの情報を教えてあげる」と英語で話しかけられ、喫茶店で話を聞くことになったのですが、いつまで経っても情報をくれず、挙げ句の果てに通常の10倍もの値段のモヒートを奢らされるという体験をしました。その経験から、英語で話しかけてくる優しいキューバ人には警戒するようになりましたね(笑)
――これだけは気をつけた方が良いことはありますか?
Aya:物が豊かでないキューバでは、物もお金も持っている観光客が一番狙われます。なので、いつも移動時は最低限のものしか持たないように心がけていました。あと観光で行かれる方は、明らかに観光客と分かる華美な服装で出歩いていると、狙われやすいので注意が必要です。
何かを変えたいと思って行った街・キューバ
photo by Aya Sagarra
――そもそもAyaさんが留学したキッカケは何だったのでしょうか?
Aya:私は学生時代ラテンダンスに興味を持ち、そこでサルサに出会いました。そして「ブエナビスタソシアルクラブ」というキューバを題材にした映画に出会い、キューバ音楽にはまり、キューバに行ってみたいと思うようになりました。
また、その頃からラテン歌手としても活動していたのですが、スペイン語の歌詞で歌っているにも関わらず、自分の言葉としてスペイン語が話せなかったので、感情を乗せることが出来ずに矛盾を感じ始めました。そんな中、スペイン語が公用語のキューバには、色々な文化が入り交じって発展したキューバでしか学ぶことが出来ない音楽、ダンスがあることを知り、本格的に語学や音楽、ダンスを深く学ぶ為キューバ留学を決めました。
――ではスペイン語とキューバ音楽の勉強のためにキューバに留学されたんですね。
Aya:でも、実は理由はそれだけではありません。当時、いろいろと日本での生活に悩むことがあって、そんな毎日に嫌気がさして「何か変えたい」と思っていました。キューバならそんな私を変えてくれるかもしれないと直感的に思ったことも、キューバに行くことを決めた理由の一つですね。
――実際にキューバでの留学生活はどうでしたか?
Aya:キューバに行った直後は慣れないスペイン語に苦労し、思ったような生活ができず、孤独と不安の毎日でした。でも、私は本当に周りの人たちに助けられました。スペイン語が上達したのも、素晴らしい音楽に毎日触れられたのも、良きパートナーに出会えたのも、すべて周りの人たちの助けがあったからだと思います。
不便さから学んだこと
photo by Aya Sagarra
――キューバの留学前と留学後でご自身に変化はありましたか?
Aya:強くなりました(笑)キューバって本当に不便なんです。現地で暮らしていると、物は少ないし、停電はあるし、水不足も頻繁に起こります。銀行に行っても役所に行っても、働いている人はみんなのんびりしすぎていて、めちゃくちゃ待たされます。なので、計画していたスケジュール通りに行く日なんて滅多にありません。
でも、そんな便利な世の中じゃないからこそ、「めっちゃ生きてる」って感じるようになりました。自分が日々キューバでたくましくなっていく感覚が、そう感じさせたのかもしれません。これは便利な生活ができる日本では知ることがなかった感覚です。
そんなキューバもアメリカとの国交正常化によって、これから便利になって変わってしまうかもしれません。そうなると今のキューバはもう見られなくなってしまうので、行くなら本当に今だと思います。
――――――――――
Ayaさんのお話は「人」にまつわる話が多かったことが、とても印象的でした。そんなキューバも、アメリカとの国交正常化でこれから物が豊かになると言われています。今はまだ配給制度が残り、人々が助け合って生きていますが、これから物が豊かになれば、生活が変わり、社会が変わり、人々も変わってしまうかもしれません。
キューバに行こうか迷っている方は、キューバが変わってしまうその前に、是非とも足を運んでください。「今のキューバ」を見られるのは、「今」しかありません。
■タイムリミットは9カ月!? 明日にでもキューバに行くべき5つの理由 | TABIPPO
●Aya Sagarra(アヤ サガーラ) プロフィール
キューバ音楽デュオ「Ex corde」(エックス コルデ)のボーカル・ピアニカ・パーカッション担当。2011年~2013年、スペイン語、音楽、ダンスの勉強のためキューバに留学。留学中に現在の夫でもあるYaxell(ジャセル)と2011年に「Ex corde」を結成。サンティアゴ・デ・クーバ、ハバナを中心に活動し、ライブのみならず、テレビ、ラジオ、大使館主催のイベント等にも多数出演。現在は夫Yaxellも来日し日本でも活動。9人編成のサルサバンド「Yaxell Sagarra y su Son d K.Libre」も結成し、関西を中心にライブを行っている。
Ex corde:https://www.facebook.com/Ex-corde-410945768938672/
Son d K.Libre:https://www.facebook.com/sondklibre/