美食の国のイメージがあるスペイン。大学時代にスペインに留学しスペイン人の家庭にホームステイをしていたのですが、その経験がきっかけでスペインに魅了され毎年のように足を運ぶようになりました。

そこで今回は、留学やスペイン旅行の経験から感じた、スペイン人の食に対する情熱とスペインの食文化の魅力についてお伝えしたいと思います。

スペイン人の並ならぬ食へのこだわり



マドリッドから北にバスで4時間程の距離にあるLeon(レオン)という街に語学留学に行ったときのこと。スペイン人と一緒に住んでいちばん感動し学んだことが、今回お話する「食事」についてです。

まずこちらが、実際に私が住んでいた時のある日の食事スケジュールです。

07時 朝ごはん1回目(菓子パンのような甘いジャムをつけた食パンやクロワッサン、マドレーヌなど)

11時 朝ごはん2回目(アンチョビとチーズのサンドウィッチやチュロスなど)

14時 昼食(メインの食事)

18時 ワインやビールを飲みながらタパス(小皿料理)をつまみのんびりと過ごす

21時 夕食(軽めの食事)

スペインでは、お昼が一番メインの食事となっていて夜はサンドウィッチや軽めの食事が多いのが特徴的です。ある日の昼食をご紹介したいと思います。

前菜としてスペイン風オムレツのトルティーヤや、スープが食卓に並び、パエリア、フィデウア(パスタのパエリア)、ポークステーキ、ミートボールなどがメインディッシュで登場します。

スペインの家庭で共通しているなと思ったことは、子供がお腹いっぱいで本気でもう食べれないと言うまで食べさせてくるところです。「これ食べ切れるよね!」「デザートのプリンあるよ」「これも食べる?」という調子でノンストップ!

そして食後にエスプレッソを飲んで少しゆっくりと過ごし、昼食後に30分ほど「シエスタ」と呼ばれる昼寝をはさみます。

夕暮れ18時頃からは近くのバルで仲間とワインやビールを飲みながらタパスをつまみのんびりと過ごします。もしくは、友人の家でピザをつまみながら集まったり、カフェでコーヒーやビールを飲みながらゆっくりするのもこの時間帯です。

そして、21時に夕食。チーズ、サラミ、トルティーヤやサンドウィッチなどお昼の残りや冷蔵庫の中にある物で簡単に用意してそれで終了です。



スペインは地域性もあり食べる物も様々ですが、北部地方の田舎町レオンの住人は大体こんな感じの過ごし方をしています。

スペイン人は本当に老若男女問わず食事を楽しみにしています。特に昼食とタパスへの想いは特別だと私は感じました。地元民はみんなどこのお店のタパスが美味しいか、味の良い生ハムを出しているかしっかり把握しています。

私たち日本人は「時間がないから」と、食べないことを選択したり簡単に済ませることが日常で頻繁にあると思います。しかしスペインでは余程の予定ではない限り、家族で食卓を囲みお腹いっぱいまで食べる「昼食」を疎かにすることはありませんでした。

大事な家族の時間であり、美味しいごちそうを共有できることこそが日々の幸せであり、エネルギーの源であるのかもしれないと気付かせてくれました。

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地域性や旬の食材が料理にぎっしり詰まっている



スペインは様々な民族から成り立っていることもあり、料理にもそれらの地域性がよく反映されています。

パエリアひとつにしても、海に面している地域は海鮮が主流で、内陸だとお肉が使われていることがほとんど。パエリアと聞いてお米を想像する方が多いと思いますが、バルセロナ地方だとパスタのパエリア「フィデウア」が一般的です。

こちらがそのフィデウア。魚介の旨味をたっぷり吸ったパスタ麺にニンニクの効いたアリオリソースをつけて頂くのが定番です。



タパスにも地域性はよく出ています。その地域でとれる食材を使っていることが多く、ガリシア地方や地中海に面している海の近くだと新鮮な貝料理もおいしくいただけます。

「タパス」の名称もスペインの北、フランスとの国境沿いバスク地方では「ピンチョス」と言われ、長い爪楊枝でパンや具材を刺したスタイルのおつまみの方が一般的です。

バスク地方はフランスの食文化の影響もあり美食の街として近年人気なので、こちらもまたおすすめです。



私の個人的なオススメは、「クロケタス」コロッケ。中が真っ黒なイカ墨のコロッケや、生ハム、トマトソース、ベーシックなもの、お店によってアレンジされたものまで幅広くあります。スペインの揚げ物は衣が薄くとてもサクサクしているんです。

このように、スペインに限らず海外を旅行する一つの魅力として「その土地の食材を知る、食べる、楽しむ」ことが醍醐味でもあると思います。

スペイン料理の魅力とは?



海外の料理の中でも、私がスペイン料理を好きな理由は「食材の良さを最大限に引き出している」からです。スペイン料理は食材と食材を組み合わせ、ハーブやスパイスを使い食材の味を最大限に引き出すように調理していると感じました。毎回口いっぱいに広がる、風味の豊さに驚きと感動を覚えます。

小さな街でも必ずといってもいいほど肉、魚、チーズ、野菜などそれぞれの専門店が立ち並んでいるので、食材を選ぶところからワクワクしますし、「今日はこれがオススメだよ」といった感じでオススメ食材や旬の野菜をその日の食卓に取り入れることができます。



日本と比較してみると、日本は食材が持っている味を尊重しシンプルな味付けや、包丁の入れ方で味の変化を楽しむ技術を持っています。日本料理は繊細な味付けが得意なような気がします。一方で、スペイン料理は食材同士がお互いの味を高め合い最高の味へと導いていると感じました。

みんなで食卓を囲む醍醐味とは?



仕事や忙しい毎日を送る中で、ゆっくり食事をする時間や誰かと食事を楽しむ時間が減っているのではないでしょうか。一人だと仕事の資料に目を通しながらご飯を食べていたり、時間がないから、早食いになってしまったり……。ということが私もしばしばありました。

そんな時にふと思い出したのがスペインでの食卓です。みんなで美味しい食事をワインと共に楽しみ、会話が弾む。今日何を食べたか、何が美味しかったか、どんな話しをしたかしっかり覚えているんです。

もうひとつ気付いたことが、ダイニングルームにテレビを置いている家庭が少ないと言うことです。都市や家のつくりによって様々かもしれませんが、私の経験では、ホストファミリー宅そして、友人の家も含めて昼食の時間にテレビの音が鳴り響き、家族がテレビを見ながらご飯を食べるという光景は一切見ませんでした。

みんなで食事をすることと同時に、些細な会話や、顔を合わせることが人とのコミュニケーションで大事であり、それを円滑にしてくれるのが美味しい料理とワインなのかなと気付きました。仕事をしながら、スマートフォンをいじりながら、テレビを見ながらなどの「ながら食べ」をしていると満腹感や食事をしたという心の満足感が薄れてしまうと気付きました。

なので私も毎日ではありませんが、料理を頑張って作り、美味しいワインを飲む時はテレビを消して、味の感想を聞いたり何気ない会話を楽しむような時間を作るように心がけるようにしています。

家にいる時間が増えた今だからこそ、もう一度何気ない日々の食事をゆっくり楽しんでみてはいかがでしょうか。

All photos by Ayaky

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