いつだってトラブルメーカーだ

バンコクを中心にストリートアートを描く、Headache Stencilを説明するには彼自身の言葉が最もしっくりくる。

だけど、アーティビズムが狙うところの社会変化は、政府が頭をかかえるほどのインパクトが必要なのかもしれない。

SNSを賑わせた「ひとりの兵士」

Banksyの名が世界中に轟いてから、思わず歩みを止めてしまう道端の落書きは、意味のある「ストリートアート」へと昇華した。

ステッカーやTシャツのデザインに採用されるなど、ファッションの一部として取り入れられることもしばしば。メッセージ性のある作品をSNSに投稿することでさえ、今ではトレンドになっている。

Headache Stencilが壁に描いた“ウォーターガンを構える兵士”は、すぐにタイで話題になった。さっそく、話を聞いてみた。

クーデターという暴力が「アート」に目醒めさせた

 

「これはタイの水かけ祭りとして有名なソンクラーンのときに描いた作品だ。水で遊んでいるときに、『軍隊が支配するようになってから4年も経つ』と多くの人に思い出して欲しかった。きっと忘れている人もいるから」

 

Headache Stencilは語ってくれた。そして、2014年にタイで起きた政治変動が彼をストリートアートの道へと歩ませることになったという。

 

「すべてはクーデターが関係している。個人的には嫌いだ。軍隊が軍隊の理由で国民を、さらに国をコントロールするのは道理が通らないと思う。だから、壁に想いを描くようになった

繰り返される歴史に疲れた国民の「代弁者」

2014年に起きたクーデターが5月22日に4年目を迎えるのを機会に、国民は軍事政権に対するデモを起こしている。Headache Stencilのいう「一気に強まった独裁支配によって行なわれている徴兵制」が、抗議を生む一つの理由だ。

 

「徴兵制は自分たちが原因になっている暴力から身を守るようなものだ。国税で買われた武器を持った、いつ攻撃してくるか分からない敵からタイを守っているだけ。最後には、いつも圧倒される。

タイの歴史を学んだら理解できると思う。どの時代でも、彼らは同じ理由でクーデターを起こしている。しかも、突然の暴力による経済的なダメージは大きいし、国も機能しなくなってしまう」

 

そして、SNSによって気軽に世界の情報を得られるようになったため、人は暴力による社会変革は難しいと悟り始めた。

 

「強いて良いことをあげるとするなら、国民がクーデターでは何も変わらないと気づいたことだろう。

多くの人の想いを代弁したカタチがアートになっている。このメッセージはかなり強い」

Headache Stencilのアクションには危なっかしい印象を受けるし、公共物を扱うがゆえに違法行為もおこなっている。そのリスクを取ってでも彼が成し遂げたいのは、ストリートアートを使った“意識の覚醒”だ。

 

「政府にとって、俺はいつだってトラブルメーカーだ。だから、Headache(頭痛)と名前に入れている。多くの人には、政治に対する意識をもっと持って欲しい。だんだんと人は忘れやすくなっているから」

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