こんにちは、世界遺産ライターのコージーです。

世界遺産探検記の第4回は、東京・上野にある「国立西洋美術館」を取り上げます。

上野には、上野動物園やアメ横商店街など観光スポットが多くありますよね。「国立西洋美術館ってなんだ……?」「え、上野に世界遺産なんてあったっけ?」と思う人もいるかもしれません。

そんな人にこそ知ってほしい魅力が、国立西洋美術館にはあります。

2016年に『ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献』(アルゼンチン、ベルギー、フランス、ドイツ、インド、日本、スイス)として、世界文化遺産に登録された国立西洋美術館。1,000を超える世界遺産の中でも、特筆すべき点があるんです。

世界遺産巡りが楽しくなる!オリジナルスタンプラリー

JR上野駅の公園口を出る。直進してわずか1分。右手に国立西洋美術館が現れた。

しかし門は閉まっている。時刻は午前8時20分。開館の9時30分まで、まだ1時間以上ある。

分かっていた。開館時間は事前に調べていたが、なぜか早く来てしまったのだ。これが世界遺産の魔力というものか。

だが世界遺産大好き芸人をなめないでもらいたい。策はある。先にスタンプをもらいにいこう。

台東区役所
上野駅を挟んで反対側にある台東区役所へやって来た。

2022年3月からスタートした世界文化遺産のスタンプラリー。国内19ヶ所の遺産を巡りながら、スタンプが集められる素晴らしい企画だ。

世界文化遺産スタンプシート
無事、スタンプをゲット!区役所に設置されているので、国立西洋美術館に行かなくてもスタンプをもらえるのが少し気になるけど、まあいいか。

日本初のトランスバウンダリー・サイト

開館5分前の9時25分。気を取り直して美術館前に戻ると、まさかの行列が。ひとまず59番目に並ぶ。開館前に並ぶこの感覚、久しぶりな気がする。

あっという間に列が進み、いざ入場だ。

国立西洋美術館
国立西洋美術館は、東京都初の世界文化遺産(自然遺産には、小笠原諸島が登録)。世界遺産と聞くと”休暇をとって行くところ”というイメージがあるかもしれないが、もっと身近な存在なのだ。

国立西洋美術館は上野駅から歩いてすぐ。日本でもっとも行きやすい世界遺産だろう。

国立西洋美術館
「東京初」だけでなく「日本初」の称号も持つ国立西洋美術館は、フランスの「サヴォワ邸」やベルギーの「ギエット邸」などとともに『ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献』として、つひとつの世界遺産に登録されている。

このように、国境をまたぐ遺産を「トランスバウンダリー・サイト」と呼ぶ。『ル・コルビュジエの建築作品』は、日本で初めてのトランスバウンダリー・サイトである。

2022年8月現在、トランスバウンダリー・サイトは世界に43件。その多くは国境を接する2国にまたがる遺産だ。

一方で『ル・コルビュジエの建築作品』はアルゼンチン、ベルギー、フランス、ドイツ、インド、日本、スイスの7ヶ国に点在する17の資産で構成される。国境だけでなく、大陸すらまたぐ、世界初の「トランスコンチネンタル・サイト」なのだ。

世界に影響を与えた「近代建築の5原則」

『ル・コルビュジエの建築作品』はその名の通り、パリを拠点に活躍した建築家ル・コルビュジエが設計した建築物がまとまった遺産だ。

20世紀を代表する建築であるル・コルビュジエは、スイスで生まれた。時計職人である父の家業を継ぐため美術学校に進学したところ、建築の才能を見出され、建築の道に進んだそうだ。

「近代建築の5原則(ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由なファサード)」や「モデュロール」など新たな概念を打ち出し、世界の建築や都市計画に大きな影響を与えた。

国立西洋美術館の入り口付近では、5原則のひとつ「ピロティ」を体感できる。

国立西洋美術館
ピロティとは、建物の1階部分を柱で持ち上げた空間のこと。ル・コルビュジエはそれまでの”壁で建物を支える”という西洋建築の常識を覆し”柱で床面を支える”建築構造を推進。壁の面積を減らすことで、デザインの自由度が高まったのだ。

国立西洋美術館の説明
国立西洋美術館は、実業家の松方幸次郎がヨーロッパ各地で収集した絵画や彫刻などの「松方コレクション」を展示するために建設された建造物。

設計を依頼されたル・コルビュジエは1955年に日本を訪問し、上野周辺で調査を行った。ル・コルビュジエの基本設計をもとに、前川國男ら弟子3人が実施設計を担当。1959年に完成した。

誕生したのは、わずか60年ほど前。歴史や伝統だけが、世界遺産の価値ではないのだ。

国立西洋美術館は「無限成長美術館」

さて、いよいよ入館だ。

まずは、ロッカーに荷物を預ける。見学には、身軽が1番だ。

国立西洋美術館のロッカー
世界遺産に登録されているのは、ル・コルビュジエが設計した国立西洋美術館の本館。本館とつながっている新館は、弟子の前川國男が設計した。

常設展の入り口を入ると、吹き抜けの19世紀ホールが待っている。

国立西洋美術館の19世紀ホール
三角形のトップライトから、やわらかな自然光が差し込む。上品でオシャレな感じがいい。

スロープも、見どころのひとつ。歩くたびに、眺めが変わっていくのだ。空間の変化を楽しみながら、ゆったりと上っていく。

国立西洋美術館の19世紀ホール
スロープを上がると、そこは本館2階展示室。19世紀ホールを取り囲むように広がっていて、2ヶ所のバルコニーからはホールを見下ろしたり、もう一方のバルコニーの奥へ視線が抜けたりと、良い感じだ。

そして、ル・コルビュジエが提唱した「モデュロール」が味わえるのも、また良い。

モデュロールとは、ル・コルビュジエが人間の身体に適した建築を目指して、黄金比と身体のサイズからつくった寸法のこと。身長183cmの人が手を伸ばした高さ226cmを住宅の天井に適した高さと定め、それを基準に部屋や家具の大きさなどを決めていくのだ。

国立西洋美術館では、天井の高さや柱の間隔など建物のほとんどがモデュロールをもとに設計されている。

国立西洋美術館の本館2階展示室
もうひとつ、国立西洋美術館を楽しむためのキーワードがある。それが「無限成長美術館」だ。

無限成長美術館とは、建物の中心から外側に向かって渦巻状に順路をとることで、展示物が増えた際には展示室を外側に増築できるというアイデア。発想も見事だし、ネーミングがカッコよすぎる。

近代建築の3大巨匠のひとり、ル・コルビュジエ

国立西洋美術館
これまで様々な美術館を訪れたが、いつも注目していたのは絵画や彫刻。美術館の建物そのものをこれほど味わい尽くしたのは、初めての経験だった。

ル・コルビュジエは古典主義、ロマン主義など19世紀以前の様式建築を批判し、合理的、機能的で明晰なデザイン原理を追求した。近代社会に合った建築を推進する「近代建築運動」の中心的役割を担った。

たしかにモデュロールや無限成長美術館の発想は見事で、19世紀ホールのデザインも美しかった。

国立西洋美術館
だが何より心を動かされたのは、彼の建築に対する姿勢だ。

僕はもちろん、ル・コルビュジエと会ったことがないので、彼の人柄は知らない。それでも国立西洋美術館を見学して、なんとなく感じるものがあった。

きっと彼は、これまでの常識を無批判で受け入れるのではなく”今、本当に何が求められているのか”を徹底的に考えぬいた人だったのではないだろうか。

だからこそ、近代建築の概念がこれほどまでに世界各地へ広がったのだろう。

変化の激しい時代。

自分が社会から求められていること、自分が自分自身に求めていることは何か。真剣に向き合って、生きていきたい。

■詳細情報
・名称:国立西洋美術館
・住所:東京都台東区上野公園7-7
・地図: ・アクセス:JR上野駅から徒歩1分/京成電鉄上野駅から徒歩7分
・営業時間:9:30~17:30(金・土は20:00まで。入館は閉館の30分前まで)
・定休日:月曜日
・電話番号:050-5541-8600
・料金:常設展500円(大学生250円、高校生以下・65歳以上は無料)、企画展は別料金
・公式サイトURL:https://www.nmwa.go.jp/jp/

All photos by Koji Okamura

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