大阪市民も足を踏み入れない、ドヤ街・西成区「あいりん地区」で2日間過ごしてみた
こんにちは、KOHです。世界中のカオスでディープなスポットを巡って旅することが大好きな筆者ですが、今回は国内に目を向けてみました。「日本は小綺麗で刺激が足り無い」そう考え、海外ばかりに目を向けていた筆者は、日本でも刺激たっぷりのカオスな街が存在することを知りました。『灯台もと暗し』とはこのことですね。
西日本最大の都市である大阪。誰もが知る大阪下町のシンボル、通天閣がそびえ立つ新世界からほど近い『西成区』には日本の混沌が集約されているようです。
ユニバーサルスタジオジャパンや、東京ディズニーランドよりも高鳴るこの気持ち。ワクワクを抱きながら、「西成が僕を呼んでいる」と東京の友人に言い残し、筆者は大阪へ旅立ちました。
西成とは
大阪市を構成する全23区のうちのひとつ。そのなかでも本記事で舞台となるのは、西成区北東部に位置する『あいりん地区』。あいりん地区という地域名はJR西日本新今宮駅の南側一帯の地区の愛称であり、昔の地名で『釜ヶ崎』とも呼ばれます。(本記事では以下あいりん地区)
ここ、あいりん地区には数多くの路上生活者が居住しており、住所不定の日雇い労働者の多さから人口統計すら不明な事態に。また、身分証明書を所持していなくても賃貸物件を借りたり、銀行口座を開設できる無法地帯でもあります。
多数の暴力団事務所、ホームレスの多さから「日本一治安が悪い」とも言われる西成区及びあいりん地区ですが、犯罪件数は少ない傾向にあります。
また、JR西日本新今宮駅の南側一帯を中心に日雇い労働者向けのドヤ(=簡易宿泊所)が集まることから、日本三大ドヤ街のひとつに数えられており、あいりん地区以外には、山谷(東京都上野)、寿町(横浜市寿町)が日本三大ドヤ街とされています。
あいりん地区入り
ただならぬ胸の高鳴りを感じつつ、降り立ったのはJR西日本新今宮駅。すぐ隣に大阪市営地下鉄の動物園前駅があるので、そちらも最寄駅です。
写真をご覧の通り、駅に降り立った瞬間からただならぬオーラが漂っています。「大変なところに来てしまった……」筆者の第六感がそのように反応しているのです。
「注射器」とは……
ひとまず駅前にローソンがあったので、用を足しに向かいます。しかし、ここは既に日本一カオスな街あいりん地区。筆者は完全に油断していました。こんなにも早く、しかも全国チェーンのローソンで、あいりん地区のカオスを目の当たりにするとは……
「注射器ってなんだよおおおおおお!!!!注射器ってええええええ!!!」
トイレが詰まるといった問題の以前にもっと大変なことが起きている気がするのですが、コンビニ側からするとトイレの詰まり問題の方が最優先事項なのでしょう。小さなテキストに大きな闇を垣間見た瞬間でした。大変なところに来てしまった…
ドヤ(安宿)にチェックイン
世界三大ドヤ街に含まれるあいりん地区。せっかくドヤ街に来たのだから、やはりドヤに泊まるべきでしょう。前日にホテル予約サイトから検索し、掲載されている西成区の宿泊施設一覧で最安のビジネスホテルをWeb予約しました。
今回予約したビジネスホテル「ホテルパークイン」は新今宮駅から徒歩約2分、動物園前駅から約1分の好立地にも関わらず、一泊の料金は¥1,000というロープライス。1ヶ月連泊しても3万円です。
どうしたらこの料金がビジネスとして成立するのか疑問ですが、この街の細かいところをいちいち疑問視しているとキリがありません。
カウンターに立つ老人に予約名を伝え、客室の鍵を受け取り、エレベーターで5階へ。自然光のみの薄暗い廊下は怪しげな雰囲気を醸し出し、やけに反響する自分の足音に恐怖しながらも、左に写る510号室が今夜の寝床となります。
客室は3畳一間の和室。テレビと扇風機が備え付けられ、作りは古いものの、異臭などは全くせず。寝具も清潔に保たれています。個人的には狭い空間の方が落ち着くので、居心地の良さは抜群で、もはや「ここに住みたい」とさえ思ったくらいです。
この日は扇風機も不要なほど快適な気温でしたが、この部屋にエアコンはありません。真冬はどうするのでしょうか。
一泊¥1,000という料金から察するに、設備という設備など一切なさそうに思えますが、快適な通信速度のWi-Fiも完備されており、浴場にはシャンプーとボディーソープが完備されていました。ここ一帯のドヤは立地の良さと価格の安さから、近年は外国人バックパッカーから人気を集めているそうです。
カラオケ居酒屋は高級店
一泊¥1,000のビジネスホテルに満足感を得つつ、日も暮れてきた頃。営業しているお店よりシャッターの降りたお店の方が何倍も多く、ひたすらに場末感が漂うあいりん地区ですが、夕刻を迎えるとそこら中のカラオケ居酒屋から歌声が聞こえてきます。
カラオケ居酒屋は1曲¥100、ビールや焼酎は¥500ほどの価格帯、こちらはあいりん地区の飲食店界隈では高級店に分類されるのだとか。
その時はまだピンとこなかったのですが、その後歩けば歩くほどあいりん地区の狂気的に安い物価を体感するのでした。
独特な不動産事情
賃貸住宅は基本的に初期費用¥0。不動産屋をほとんど見かけなかったので、入居希望の場合は物件と直接のやりとりになるのでしょう。ほとんどの集合住宅は軒先に看板を出していて、年金生活者や生活保護受給者向けには割安となる別家賃が設定されていることが特徴的です。
床屋の開店が早すぎる
床屋に関しては、もはや安値など気にならず。注目すべきはその営業時間。なんとここは、朝6時半に開店して夕方5時半には閉店するそう。この街独特の生活リズムに合わせた営業時間なのでしょう。時間の概念すら独自の文化をきづくあいりん地区、恐るべし……
スーパー玉出
大阪を歩いていると、よく見かけるスーパー玉出。よそ者の筆者からするとギラギラと輝くその外見はどう考えてもパチンコ屋にしか見えないのですが、地元民の食卓を支える大事な存在なのだとか。
外見だけではなく内部も派手に電装されています。サンリオのキャラクターの一体や二体くらい出てきそうな雰囲気ですが、一周回った結果、品揃えの豊富な優良なスーパーでした。
貼り紙に学ぶ男の美学
街中の貼り紙は賃貸物件の入居者募集と仕事の求人がほとんどなのですが、こちらの雀荘には一風変わった貼り紙が。
【男の美学】
20代30代は男に成りたい
40代50代は男でありたい
60代70代は男で死にたい
〜オーナー名言集〜
なんだかとても心に響きました。まさかあいりん地区の貼り紙に『男』を教わるとは……
スリッパ100円
こちらは何の変哲もない靴屋。あいりん地区では靴が片方だけ売っていると噂には聞いていましたが、通りがかった靴屋ではそのような怪奇現象は見受けられません。
しかしスリッパの値札には、二度見せずにはいられませんでした。
自動販売機の価格破壊
物価の象徴でもある自動販売機。缶コーヒー¥50、ペットボトル¥100が大体の相場です。
様々な自動販売機の中で最も安いドリンクは、¥30の青ゆずレモン味のペットボトルジュースでした。
ゲームセンターにお酒がマストアイテム
あいりん地区一帯ではおそらく、アルコールの自動販売機の方がソフトドリンクの自動販売機より多く、アルコールの自動販売機が8台ほど集まって酒屋として成立しているところも存在するくらい。
あいりん地区で街ゆく人が昼夜問わずお酒を飲んでいるのは、いつでもどこでもお酒を購入できる自動販売機の存在が大きいのでしょう。
通りがかりに見つけたレトロ感漂うゲームセンターに全員が全員この自動販売機でお酒を買って入っていきます。見かけた限りでも4人中4人がお酒を持ち込むので、その行為に掟じみた義務感を感じ、筆者も自動販売機で¥100の缶チューハイを購入し、ゲームセンターに入店してみました。
どうやら酒缶には定位置があるそうで、目を凝らしてよく見てみます。
「郷に入ったら郷に従え」とはよく言ったものです。
先人に習って行動パターンを真似してみましたが、驚くほど充実感に欠けました。
きっと筆者のような若輩者にはまだ早かったのでしょう。あいりん地区の娯楽スタイルを楽しめないまま、さらに散策を。
あいりん地区の歩き方 2日目
1泊¥1,000のビジネスホテルをチェックアウトし、帰ると見せかけて再び散策を開始します。すっかりツッコミどころ満載のあいりん地区にハマってしまい、もう少し回ることに。
あいりん労働福祉センター
まるで暗黒要塞のように佇むこちらの施設は『あいりん労働福祉センター』。晴天であるにもかかわらず、まるでそこにだけ光が当たらないかのような並々ならぬオーラを発しています。
ここはあいりん地区で生活をする人に向けた就労の斡旋と、福祉の向上を目的に設置された福祉施設。『大阪社会医療センター病院』もまた同住所となっており、病院も含めた建物全体を総合して『あいりん総合センター』または『西成あいりんセンター』と呼ばれます。
あいりん労働福祉センターの1階では早朝5時から日雇い労働者向けの求人活動が行われ、早朝にもかかわらず多くの日雇い労働者がその日の仕事を求めて集まってきます。
近年、日雇い労働者の高齢化が進み、日雇いの仕事も高度経済成長期に比べるとおよそ3分の1に低迷。その影響があってか、筆者が街を歩いていると30分に一度は「お兄ちゃん、仕事探してない?」と、中年男性にと声をかけられます。
高齢化が進む現在、若い労働力はとても重宝されるのでしょう。
小便禁止
あいりん地区では道端で小便や大便をしてはいけません。とはいえど、日本全国どこでも同じことなのですが、この地域に関しては特別厳戒態勢なのです。
街のあちらこちらに表示されている小便大便禁止の文字。筆者はこんなにも警戒水準の高い街を他に見たことがありません。
一昔前は町中に小便の悪臭が漂っていたみたいですが、いまやそれは昔話。
筆者があいりん地区を散策するなかでは、一度も小便の悪臭がすることはありませんでした。
日本一安いラーメン屋
西成区ナンバーワングルメスポットの「ねむり姫」。この日、終わりの見えない西成散策をしている真の目的は、ねむり姫で販売されている日本一安いラーメンを食すること。
しかし、いつまでたっても開店しません。当然、ここはあいりん地区なのでWebで検索したところで営業時間や定休日は不明。全能の神Google先生もお手上げなのが、ここあいりん地区なのです。
店内にはたしかに見える「ラーメン うどん 100円」の看板。そこらへんのカップラーメンより安いです。待てども待てども開店する気配は全くないので、お腹もすいてきたので他を探そうかと3m歩いたその時、筆者は脳天に雷が落ちたかのような衝撃をくらうのでした!
日本で二番目に安いラーメン屋
「100円ラーメンの隣に200円ラーメンあんのかよおおおおぉおぉおおおお!!!!!」
あいりん地区の度重なる珍事にも慣れて、ちょっとやそっとでは驚かなくなってきた頃、まさか『日本で一番安いラーメン屋』の3m隣に『日本で二番目に安いラーメン屋』があるなんて、誰が想像してことでしょう……しかも種類豊富だし….
こればかりは完全に意表を突かれました。
なんなのでしょうこのお店は。筆者の知っている日本の保健所はこの環境を認めたのでしょうか。『あいりん地区は治外法権』とは聞いたことがありますが、冗談かと思っていました。
さらに貼り出されているメニューをよく見ると「わかめ 200円」ってそれおかしくないですか⁉︎ あいりん地区のわかめどれだけ付加価値高いんですか⁉︎
「おかしいのはきっと自分の方だ」そう言い聞かし心を落ち着かせ、「しょうゆラーメン 200円」を注文。席へと通されるのですが、表にある家財ゴミと思わしきものが客席のようです。思いっきり公道ですよねコレ。
おそらく、ここはあいりん地区で一番眺めのいいレストラン。開放感あふれる客席は、副交感神経の活動を高めてくれ、体内に溜まったストレスを深呼吸と共に…..ってそんな馬鹿な。
ぶつぶつ独り言をつぶやいていると、着席してからおよそ3分でラーメンが出てきました。圧倒的スピード感です。あのアンダーグラウンドな店内で、どんなシステマチックな調理が行われているのでしょう。
つべこべ言わずに食べます。
最初から病的に塩胡椒がふりかけられているので、めちゃくちゃしょっぱいです。
煮卵は食べたことのない味がしました。率直に言うと小便臭かったです。
終始ラーメンをディスりながらすすり続け…
完食。
煮卵が後から腹の中悪さをするのではないかと不安を抱えたまま、家財ゴミ客席を後にします。
「しかし、このテーブルの先に見えるカタカナは一体なんなのだろう」。疑問を抱いたらきりがないあいりん地区において、食事中に少し気になってしまいました。
帰り際に見てみると…..
「ラーメン屋が謎の植物売ってるーーーーー!!!!ゴミのような値段で謎の植物売ってるーーーー!!!!」
まとめ
ひたすらに楽しかったです。筆者は日本で一番この街が好きです。
一人一人の人生のドラマの終着点、あいりん地区。ここに住む人のほとんどは、人生の通過点ではなく終着点としてここにいます。無法地帯だからこそ表の世界で生活できる人、ドヤがあるから雨風をしのげる人。
あいりん地区にはあいりん地区の歴史と文化と人情が濃く詰まっています。外国人バックパッカーへの人気が出始めているドヤ街ですが、地元民との均衡は崩さない程度に観光業が発展すればいいなと思います。
大阪市民もなかなか立ち入りたがらない地域ですが、気が向いたら日中に散策してみるくらいはいいかも知れませんね。筆者のように写真を撮ることは暴力団関係者に良しとされないので、街中での撮影は控えましょう。