長崎の離島の一つである小値賀(おぢか)島。長崎・佐世保から高速船で約二時間のところにあるこの島で、これまで見たことのない島民が参加して作り出す「小値賀島DIY Wedding」のモニター挙式が、はじめて行われたのです。

東京から片道約5時間かけて向かった先には、とにかく美しくあたたかい結婚式が待っていました。

長崎県五島列島の北に位置する小値賀島

小値賀島は、長崎県にある五島列島の中の一つ。長崎空港からバスまたはジャンボタクシーで1時間〜2時間掛けて佐世保駅へ、そこからさらに、1時間半程度かけて高速船を利用し、ようやくたどり着ける島です。

「小値賀町はね、なんもないの」と、島民の方が声を揃えて笑って答える通り、いわゆる目玉となる絶景観光スポットも多くなく、コンビニもありません。

お店は夜早くに閉まりますし、夜は真っ暗になる小値賀島にあるのは、島民の皆さんのあたたかさと自然。小値賀島は、それだけで十分な島なのです。

島丸ごと参加!「小値賀島DIY Wedding」

「小値賀島DIY Wedding」のモニター挙式を開催するきっかけとなったのは、長崎にある活水女子大学の学生さんが考案した、「小値賀でウェディングをする」という企画。これが、大学生観光まちづくりコンテスト2018最高賞となる観光庁長官賞を受賞したのです。

この受賞プランを長崎県と小値賀島と、ウェディングの第一線で活躍している「ワタベウェディング」がブラッシュアップし、事業化の検証としてモニター挙式をすることになりました。

小値賀島は島民の声全会一致で「なんもねえ」島。裏を返せば、「なんでもできる」島ということで、島を挙げてこのウェディングプランのモニター挙式を実施することに決まりました。

「小値賀島DIY Wedding」という名の通り、アーチや署名台は流木を利用、テーブルやお花台などは、島民が協力して造り上げました。

挙式に参列者が座る長椅子は、島民の方からの借り物。ブーケやヘッドドレス、挙式後のパーティーのテーブルに並ぶお花などは、島のお花屋さんが手掛けました。ヘアメイクも小値賀出身の方が担当し、パーティーの料理はほぼすべて小値賀産の食材で作られています。

そして、極め付けは挙式会場。なんと、潮が引かないと現れない砂浜の上で行います。言い換えれば、写真のように潮が引かなければ会場は出来上がりません。

主役は「長崎大好き」カップルの可愛らしいお二人

実は、今回は一般公募から選ばれたカップルのウェディング。たくさんの応募の中から、「大好きな長崎を盛り上げたい!」という想いで応募された、邦彦さんと佳奈さんカップルです。

二人の出会いは大学時代に入っていたオーケストラサークル。邦彦さんが佳奈さんに一目惚れ、佳奈さんは邦彦さんのいつも笑わせてくれるところに惹かれ、交際がスタートしました。そんなとき、邦彦さんは仕事で長崎に。

二人は遠距離恋愛になるも、佳奈さんは邦彦さんが長崎にいる2年間で6回も会いに行かれたそう。長崎と東京を行き来し、プロポーズを長崎五島で行い無事ゴールインとなりました。

そんな二人がこの「小値賀島DIY Wedding」のモニターを知ったのは、東京にある小値賀島をテーマにした居酒屋。二人で食事をしていたとき、今回の企画を知り応募されました。

「なんもないと言われていましたが、僕たちの要望に“なんでも”応えてくれる島の皆さんに本当に感謝しています。明日は天候だけが心配ですが、晴れそうで嬉しいです」と、挙式前日、ワクワクした様子で話してくれました。

「まさか小値賀でやるなんて!」島民の方のインタビュー

「小値賀島DIY Wedding」は、街に住んでいる島民の方がたくさん協力して作り上げます。今回結婚式に主に携わった方々を写真とともにご紹介します。

フラワーアイテム「ききょうや」

ブーケやヘッドピースを手掛けた「ききょうや」さん。新婦から希望のアクセサリーイメージが送られてきて、それに合うよう福岡までお花を取り寄せて完成させたそう。生花で作られたブーケとヘッドピースはとても上品で可愛らしいです。

担当した藤田ハツヨさんは、「送られてきたイメージ画像に、見たことのないお花があって。似たようなものを探すのに、島から出て福岡まで探しに行って、大変だったけどなんとかできてよかった」と安心していらっしゃいました。

ペーパーアイテム 活版印刷「OJIKAPPAN」

パーティーの席札を担当した活版印刷の「OJIKAPPAN」さん。先代まで続いた「晋弘舎」さんは100年以上ほどの歴史を持つ歴史ある印刷屋さんです。

一枚一枚、名前を変えて紙に文字を印刷していきます。そうして、深みのあるあたたかい席札が出来上がりました。

ヘアメイク「ふじや美容室」

新郎新婦のヘアメイクを担当したのは「ふじや美容室」さん。新婦の「ゆるふわ系で」というリクエストに答え、可愛く仕上げました。「小値賀で結婚式なんて、びっくりですが嬉しいです」と答えてくださいました。

パーティー料理 古民家レストラン「敬承 藤松」

挙式後のパーティーで料理を担当した、古民家レストラン「敬承 藤松」さん。小値賀産の食材を使ったコース料理を提供し、列席者の胃袋をガッチリ掴みました。

メインのお造りはギリギリまで何にするか悩み、料理を出す朝に上がった魚を豪華に盛り付けるそう。前日にディナーで上記写真のお料理をいただきましたが、新鮮さはもちろん、美味しさも飛び抜けていました。九州地方独特の甘いお醤油につけて食べる刺身に手が止まりませんでした……。

ウェルカムドリンク キッチンカー「flour jams」

挙式前にウェルカムドリンクを提供してくださったのは、キッチンカー「flour jams」さん。普段は「キューバサンド」「チキンとアボガドのサンド」などの人気商品を引っ提げて島中を回っています。

当日は、運営スタッフのまかないを作ってくださいました。

運営スタッフ「チームおぢかウェディング」

そして、この「小値賀島DIY Wedding」成功のために、半年以上も試行錯誤をして作り上げた運営スタッフ「チームおぢかウェディング」のみなさん。

会場選びからセッティング、参加者の呼びかけなど、小値賀島が大好きで、小値賀島のためにたくさんの時間を使って今回のウェディング成功へ、最後の最後まで走り回っていらっしゃいました。

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当日ギリギリまで綿密な準備を。潮が引いて現れる挙式会場

「潮が思ったより引かないな……」そんな言葉から始まった当日準備は、会場である柿の浜海水浴場で朝早くから行われました。

実際に、潮が引くタイミングを図り椅子や台を出していく、花瓶の下に敷く台を大きな丸太から造りあげ、バージンロードの装飾イメージなど、たくさんの人がさまざまな場所で準備を進めます。

一番の課題は潮が引いている時間をいかに有効活用できるかということ。この間に挙式とパーティーを済ませないと、どんどん潮が満ちてきて、ビーチがみるみる無くなっていきます。

どうしたら時間内に満足できる挙式とパーティーができるか、そのためには何をしたらいいのか、なんどもなんどもチームおぢかウェディングの方やワタベウェディングさんの会議が重ねられました。

いくら人間が工夫しても、相手は自然。もし、潮が早く満ちたら、雨が降ってしまったら、風が強かったら……あらゆる可能性を考えて進める必要がありました。

小値賀島のフォトスポットでウェディングフォト撮影

皆の祈りが通じたのか、ウェディング当日は眩しいくらいの快晴。雲は少々、真っ青な空が広がり、太陽の日差しに目が眩むほどの恵まれた天気となりました。

まずは、小値賀島のフォトスポットでウェディングフォト撮影。真っ白なスーツの新郎とウェディングドレスに身を包んだ新婦が向かったのは、お二人が選んだ2つのフォトスポットです。それぞれご紹介します。

姫の松原

姫の松原は、小値賀島のちょうど中央に位置している、約400〜500メートルに渡り空まで覆いつくすほどの松並木がある場所です。日本の名松百選および新・日本の街路樹百選に選定された、まさにフォトジェニックスポット。

白いウェディングドレスとタキシードが映えるので、どこを切り取ってもおしゃれな写真に出来上がります。

■詳細情報
・名称:姫の松原
・住所:長崎県北松浦郡小値賀町柳郷
・地図: ・電話番号:0959-59-3111

長崎鼻

長崎鼻は放牧地。複数頭の牛が放牧され、ゆったり過ごしています。長崎鼻の先に見える青い海と緑の草を食べる牛が見られる絶景ポイント。

少し雲がかかってしまいましたが、まるで日本ではないかのような一枚になりました。

■詳細情報
・名称:長崎鼻
・住所:長崎県北松浦郡小値賀町柳郷
・地図:

たくさんの島民の「餅まき」で祝福

ウェディングは挙式から始まるのではなく、今回は小値賀島のお祝いごとの風習である「餅まき」からスタートしました。

「餅まき」とは、船が造られたり新居が建てられた時に、島全体で祝う風習のこと。小値賀島のメイン通りに島民が集まり、トラックの荷台から新郎新婦が投げる袋に入った紅白餅を、キャッチして食べると福が訪れると言われています。

前日から島内放送で「餅まき」の案内がされたため、当日は本当にたくさんの人たちが集まりました。

「餅まきは、久しぶりなの。たくさん取れるかしら!」とワクワク話をするおばあちゃんたち。最近はめっきり餅まきをする機会も減ったそうで、今回は一年以上ぶりに開催されたそうです。

餅まきが始まると、大人も子供も関係ありません。とにかく「こっちに投げて〜!」とアピール大合戦。一つでも多くのお餅をキャッチしようと、賑やかに楽しむのが餅まきです。

終わった後、「正直こんなにたくさんの人が来てくださるとは思っていなかったので、うれしかったです」と新郎新婦のすてきな思い出にもなったようです。

最高の青空の下で、感動の式に

潮が引いてアーチやベンチなどが設置できるようになる、ギリギリまで待ちながら準備をします。不備がないか、完璧かどうかチェックをし、万全の態勢で式はスタートです。

 

青い海を見ながら、新郎新婦を待つ列席者たち。ドレスコードも青と決められていたそうで、とてもフォトジェニックな光景になりました。

美しい青い空と青い海に映えるウェディングドレスとタキシード。小値賀島の自然に囲まれながら、あっという間に式が進んでいきます。

最初から最後まで天気も崩れることなく、非常に順調に式は終わりました。

式の後は、食材はほぼ全て小値賀産のもの、古民家レストラン「敬承 藤松」の料理長が腕を振るったコース料理と一緒にパーティーは進んでいきます。

はじめての共同作業のケーキ入刀ならぬ、温釜焼の中に入っている黒アワビを取り出すために叩き割る塩釜開きをしたり、大学の吹奏楽団がきっかけで出会ったお二人のセッション、新郎新婦より一人ひとりへ贈呈品が送られるなど、美しい海を背景に思い出に残るパーティーとなりました。

何度も感謝を伝えたい、最高のウェディングに

式を終えた新郎新婦に話を聞くと、「天気も晴れて家族もみんな喜んでくれてよかったです。そして、見にきてくださった方、準備をしてくださった小値賀島の皆さんに感謝しかないです。皆さんの前で我々の結婚を見届けていただけて嬉しく思っています」と笑顔。

私たちがよく知る結婚式は、教会やホテルですでに場所が用意されていて、できることは限られてきます。しかし、「小値賀島DIY Wedding」は一からすべて手作りで作り上げたもの。天候次第では別の会場も用意していたそう。小値賀島にはたくさんのすてきなロケーションがあるので安心です。

「記憶に残る式になって、小値賀島の方々に感謝しています」と話した新郎新婦の言葉通り、小値賀島のいいところを前面に引き出して、島民が一丸となって祝う結婚式に。

非常にアットホームで、「島中からたくさんの祝福を受ける喜び」は、普通の結婚式とはまた違った感覚が味わえ、あたたかい気持ちになるはずです。

小値賀島民が祝福する、素晴らしい結婚式を

結婚式といえば、これまでお世話になった方々や親しい友人を招いて、ワイワイガヤガヤ楽しむものだと思っていましたが、今回の小値賀島でのモニターウェディングはそのイメージを覆す、自然に囲まれたすてきな式に。

青い海に向かって歩いていく、真っ白なウェディングドレスは本当にきれい。どこを切り取っても思い出に残る式は、小値賀島の魅力にあふれていました。

 

新郎新婦はもちろん、列席した家族も大満足だった小値賀島のモニターウェディング。式に関わったすべての人の絆を感じられ、つい周りに自慢したくなる素晴らしい結婚式で、商品化が楽しみです。

All photos by 桃

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