長野県の「炭職人」が焙煎したコーヒー、飲んでみたくない?
玄米を焙煎してつくるコーヒーがあります。“飲むマクロビ”の異名が付くように、美容・健康面ばかりに目が行きがちですが、ここに紹介するプロダクトは、その製法に注目してもらいたいもの。長野県の小さな山村に暮らす炭職人が、原料の米からつくった自家焙煎ですよ。
コーヒー豆に劣らない自家焙煎の深い味わい
まずはそのモノに注目してみましょう。この一粒一粒が炭焼き釜で焙煎された玄米。もちろんこのままでも食べることができます。これを挽いてパウダー状にしたものが「玄米コーヒー」に。ドリップすれば、コーヒー党も納得のロースト香が立ちのぼり、飲めば本格豆に劣らない、深煎りのどっしりとしたコクを十二分に感じることができます。
でも、炭と玄米とコーヒー。これらがどう結びついたのか?そのヒントを丁寧に紐解いていくと、山村集落に根付く土着の文化が見えてきました。
“炭焼き”から生まれた
「信級(のぶしな)玄米珈琲」
長野県長野市の山あいにある集落・信級(のぶしな)地区。この土地でくだんの玄米コーヒーはつくられています。明治期より豆や麦、蕎麦の栽培、稲作、さらには林業、炭焼きが盛んに行われてきた信級。昭和30年ごろまでは、麻や養蚕で生計を立てる農家もありましたが、それも時代とともに姿を消し、今では人口わずか130人ほど。限界集落の危機は、この地区にも押し寄せています。
この信級に、東京から家族とともに移住してきた植野翔さん。「信級玄米珈琲」の生産者です。大学卒業と同時に農業を志し、Iターンで長野へとやって来た青年は、果樹園のアルバイトから、夢にみた“農業生活”をスタート。そして、流れ着いた信級で、運命的な出会いを果たしました。この地区でたった一人の炭職人・関口さん(80歳)との出会いです。
「移住したのが、農作業がオフシーズンに入る冬の閑散期だったんです。それで、関口さんの炭窯を手伝ったのがご縁で。やがて、『自分の窯をつくれ』と師匠に言われるまま、自分の釜をつくっちゃって…」
関口さんの指導のもと、炭焼きのノウハウを体に覚え込ませていく日々。やがて、伝統の技法は、「炭農家うえの」へと受け継がれました。
とはいえ、平地に比べ営農条件が厳しい信級地区。植野さんも、炭焼きと稲作を兼業で行う農家です。「炭焼きは素敵な仕事だけど、生計を立てるには厳しい」。それでも、彼にはある狙いがありました。
炭窯の余熱を利用して玄米を焙煎しよう!
ある日、師匠の焼く窯の中に注目した植野さん。聞けば、炭窯で玄米を炭化させたものを毎日お茶代わりに飲んでいる、と。そこにヒントを見出した彼は、炭窯の余熱(つまり遠赤外線)で玄米を焙煎してみることに。すると、まるでコーヒーに近い味わいがしたそうです。
これはいけるかもしれない──。直感的に感じた植野さん。炭窯の余熱を利用した、試行錯誤の玄米コーヒーづくりが、こうして始まりました。パンやピザならまだしも、玄米の焙煎に利用するとは、兼業農家ならではの発想力。
遠赤外線による
ふっくら、さっくり仕上げ
適度な焙煎度合いとなるタイミングは、なんとたった10秒程度だとか。このわずかのタイミングを逃せば、玄米は燃えただの炭になってしまいます。炭を出しては焙煎時間を少しずつ変えて、最適なロースト感を探し求めました。
「石窯の温度は一定ではなく、そのため焙煎の具合を見極めるのが最も神経を使う作業ですね」
焙煎は、「信級玄米珈琲」の味の決め手となる生命線。真っ赤な炭を掻き出した窯の中は、遠赤外線がまんべんなく均一に回っている状態。この環境が玄米にふっくら、サクッとした煎りあがりを与える、炭窯ならではの焙煎です。
植野さんの玄米コーヒーに独特の深みを感じるのも、この「ふっくら、さっくり」によって生み出された玄米の隙間に、コクと香りが閉じ込められているからなんだとか。
自家栽培の米も湧き水も地元信級、大地の味。
原料の米(もちろん地元信級産)にもこだわりあり。農薬は除草剤1回のみに抑え、化学肥料も使わずに育てています。信級の湧き水をたっぷり吸いあげた、ご自慢の米の特徴をひと言で表すなら、「昼夜の厳しい寒暖差に育まれた、身の引き締まった味」だとか。さらには、“自然栽培米”だけを使用した玄米コーヒーも、受注生産で受け付けてくれるそうです。
燃料となる炭も、原料の米も、すべてが手づくりの信級産。もともとこの地域の生活の中にあった、「炭焼き」と「稲作」ふたつの営みを掛け合わせ、持続可能なものづくりを体現してみせた「信級玄米珈琲」は、いま新たな特産品として長野県内に限らず、都心のオーガニックカフェやセレクトショップでも販売されるまでに。
「健康意識」よりも
まずは、毎日の食卓へ
褐色をしてはいても玄米100%、ノンカフェインだから妊婦や子どもでも安心して飲むことができます。健康食品としての扱いでなく、コーヒー豆で飲む一杯と同じように、まずは普段から「嗜好品として楽しんでもらいたい」とつくり手は、すっかり定着したコーヒーブームとは別路線から、新風を吹かせようと意欲的。
「ドリップの深煎り」と「急須の浅煎り」、焙煎方法の異なる2種類はお好みでどうぞ。
信級に受け継がれてきた山村に暮らす人たちの文化を、深く香ばしく煎した玄米珈琲の味わいのなかに感じながらいただきましょうよ。公式サイトからは、オンラインショッピングでも購入可能ですよ。