『Reborn-Art Festival 2017』 “1泊2日”アート体験が、すごかった。
前回の記事、わーっ!と書き上げてすごい達成感に包まれたんですが、まだ「体験のリセット」段階までしか終わってなくて愕然としました……。
〈DAY1 12:30〉海底8メートルの屋上から
体をリセットしたあと、最初のプログラムは『触覚をひらくインスタレーション』。参加者は荻浜小学校の屋上へ上がる。そこには、アーティスト、大崎晴地さんの作品『seafloor』が。
大崎さんは、心身発達のリハビリテーションなどに携わりながら制作にとりくんでいるアーティスト。作品は児童福祉施設でも活用されているという。心と体の関係にくわしい大崎さんだからこそ、人間が本来もっている感覚を呼び覚ますアートを構築することができるのだろう。『seafloor』は、海底8メートルの世界を表現したインスタレーション作品だ。屋上には、流木や貝殻といったオブジェクトが転がり、潮の流れる音、テンプラノイズと呼ばれるシャコやフジツボの威嚇音が聞こえる。また、非可聴域(人間が音として感知することができない周波数帯域)の音も鳴っているそうで、それは振動で感じることができる。
体で音を聴く、という不思議な体験……。
〈DAY1 13:00〉食事でも「リセット」
「シンプルなお食事をご用意しました」目の前に並ぶのは、おだし、焼き梅干しにお湯をかけた梅湯、禅粥、ふのりのお味噌汁。
料理人・福原さんが用意してくれた、味覚をリセットするためのミニマムなメニュー。日常生活で、ここまでシンプルな食事をする機会はなかなかない。その分、梅やだしの香りが際立ち、食事は五感で味わうものだということを再認識する。生きていくためには、食べないといけない。けれど、生きていくためには仕事をしないといけなくて、時にはごはんを食べる暇すら惜しかったり、コンビニのパスタをかきこんだりする。私はそれを否定しない。だって、忙しいもん、みんな。だから、『Reborn-Art Walk』で体験することを、人間はこうあるべき、と伝えるつもりはないし、そもそも『Reborn-Art Walk』はそんな正解を伝えるためのプロジェクトじゃないように思う。だって正解なんてないし。私にとっての『Reborn-Art』=生きる術とは一体何なのか——自分の体のなかに、体験のなかに、その答えを探すこと。この1泊2日は、そのための時間なのではないか。そんなことを考えながらごはんを食べた。ごちそうさまでした!
〈DAY1 14:00〉初・体・験
鹿の解体が、です。さらに私にとって鹿の解体は、・水曜日のカンパネラ、コムアイの特技・しかもライブで鹿の解体をしていた =とりあえずとんでもなくクレイジーみたいなイメージしかないんですが、なんか大丈夫でしょうか(いろいろと)。不安に揺れつつたどりついたのは「FERMENTO」という施設。今夏オープンしたばかりの鹿肉加工処理施設だ。
「これまで処理されていた鹿は山の中に埋没されていたんです」鹿猟師、小野寺望さんの言葉に愕然とする。
牡鹿半島はその名の通り、鹿が多く生息する地域。鹿の増加による食害(若芽を食べられ、植生が偏り、循環できる自然が失われる)が深刻化していることから、鹿は害獣として扱われ、食べられることなく処理されることも多かったのだという。小野寺さんは鹿を処理することに抵抗を感じながらも、「心を鬼にするしかない」と、20年もの間、猟師を続けてきた。「その鹿を食に変え、生かしたいという目的でこの施設は設立されました」『Reborn-Art Festival 2017』は、この地域課題の解決のため、施設のオープンに出資した。RAFはただのお祭りではなく、地域の課題を解決するための総合祭を目指しているのだ。
鹿、登場……!!あたりは厳粛な空気に。処理されていても、生きていた時と変わらない姿。生々しい、というか、動き出しそう。リアクションに困る。生々しいその姿形は、そこに命があった事実を、自分の無知さを、問答無用で突きつけてくるから。これは、小野寺さんをはじめ鹿猟師の課題ではなく、地域のみんなの課題だったはずだ。でもその間、その事実と向き合ってきたのは彼らだけだったのだ。
一部の限られた人が背負ってきたものが、地域の課題として取り上げられるまでに、長い時間がかかる。これは牡鹿半島だけでなく、日本中のあらゆるところで、あらゆるかたちで起きている問題なのかもしれない、と気づく。私だって、どこか自分の知らないところで、誰かに小野寺さんのような思いを強いているかもしれない。これを読んでいるあなたもだ。そのなかで、芸術祭は、その課題を解決する手立てになるかもしれない。観光業の活性化という役割を担っていた芸術祭は、近年数が増え、そのメリットにも限界が見えてきた。芸術祭のかたちはアップデートされなければいけない時代にきているし、それがアップデートされるということは、参加する私たちの体験自体もアップデートされていくということだ。そんな「芸術祭のあり方」からも、「体験」のヒントを得た気がした。
鹿をさわってみる。皮も、肉もやわらかい。関節通りに、足を曲げることもできる。ナイフで切っていく。ほとんど力を使わない。皮目や骨に繋がっている筋繊維に刃を入れると、思いの外簡単に剥がれていく。内臓を取り出す。筋を切るため、血が大量に飛び出ることはない。生臭さのような、嫌な匂いもしない。意外だった。解体は進む。スーパーで見る鶏肉のような、私たちの見覚えのある形になる。これが、生き物が食べ物になる瞬間。新たな経験が、午前中リセットされた体のなかに刻み込まれていく。解体した鹿を調理するのは、RAFのフードディレクター、目黒浩敬さん。
目黒さんは、かつて仙台市でジビエ料理もあつかうイタリアンレストランを開いていた料理人だ。「料理で扱う鹿は、海外から輸入していたんです。だけど、宮城で食材が確保できるのに、海外から取り寄せることに疑問を感じて。そのときに出会ったのが小野寺さんでした。その地で獲れた食材が一番おいしいと思っています」料理ができあがるのを待つ間、参加者はオプショナルプログラムへ。オプショナルプログラムは、以下の3つから希望のものに参加することができた。
① 刺し網漁体験
地元の漁師、甲谷強さん、土橋剛伸さんとともに、翌朝に行う刺し網漁のしかけを設置するプログラム。ちなみに刺し網漁とは、魚の通り道に長さ150メートル×高さ2メートルほどの帯状の網をしかけ、魚をからませて獲る漁法だ。
北海道に次いで、全国第2位の漁獲量を誇る宮城県。東日本大震災での壊滅的な被害を乗り越えて再開され、今なお牡鹿半島を代表する産業として続く漁業に携わることができるプログラムだ。ちなみに私はこのプログラムを選択。その日の潮の流れや水温を見極め、網を設置する甲谷さんと土橋さん。その姿を見ていると、自分とはまったく違う観点・感じ方で海と対峙しているのがわかった。ずっとこの土地で暮らし、漁を続けてきたからこそ働く勘がある。
② アート鑑賞
旧桃浦小学校エリアを探索し、森や海の風景、風や波の音とともに、アート作品を楽しむプログラム。
このエリアには、Reborn-Art Festival 2017のメインビジュアルにも使われた、名和晃平のアート作品『White Deer(Oshika)』がある。自然と人間の共存を、アートを通じて考えることができるプログラムだ。
③ 鹿角クラフト
鹿肉の解体に引き続き、小野寺さんが講師を務めるプログラム。同じかたちがふたつとない鹿角で、オリジナルストラップを作ることができる。
〈DAY1 17:30〉鹿を食す
参加者は再び「FERMENTO」に集合。解体した鹿肉が調理され、テーブルに盛りつけられている——のだが。
あれ、お箸は? スプーンも、フォークもない。と、その時。「今回は手で食べていただきます」でも、実はこの展開、ちょっと予測していました!ナビゲーター成瀬さんの言葉は続く。「汁気があるかパサパサか、熱いか冷たいか、手でも感じながら食べてみてください」以下、メニュー。・鹿肉のパエリア・鹿肉スペアリブ・鹿肉の朴葉巻きロースト・鹿肉の岩塩煮込みまさに、鹿肉のフルコース。どの料理でもまったく臭みがなく、食べやすい。手で食べることにはなかなか慣れないけれど、その分、豪快に食べることができるのも事実。
「鹿肉、全然食べれるでしょ。おいしいでしょ」猟師の小野寺さんが語りかけてくれる。鹿肉は鉄分が豊富で、消化が早く、食べるとよく体が温まるのだそうだ。「今まではただただ処分されてきた鹿だけど、こうしてみんなに食べてもらえてうれしい。鹿のおいしさを知ってくれるといいなあ」食べながら、(あ、これさっき解体したあの部位だ)とわかる。さっきまで生きていたようなあの鹿の姿、解体の感触を思い出しながら、本当の「いただきます」の意味を理解できたような気がした。
〈DAY1 19:00〉1日目、終了!
これにて1日目の行程は無事終了。参加者はホテルへ。いろいろ思ったり考えたりすることもあるし、「Reborn-Art」の答えはまだはっきりしない。けれど、とにかく寝ることにする。明日、朝4時起きで漁に行くからな!(次回へ続く)
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