海水浴場発祥の地、西湘・大磯海岸を歩く

内陸の地に育ち、子どもの頃から外遊びが好きだった筆者にとって、「梅雨明け」は「待望の海遊び解禁!」と同義でした。成人してからもその感覚は変わらず、暑さが本格化すると砂浜に出かけたくなります。

ただ、今年の関東地方は梅雨明けが異常に早く、なんとも季節感のない夏の入りとなっています。連日の酷暑に鬱憤をためていましたが、どうにも耐えられずに西湘の大磯海岸へと出かけました。

遊泳禁止の西側は夏場でも釣りができ、平日は出勤前に竿を振る釣り人がズラリと並びます。日中は厳しい日差しにさらされますから、何かと効率が良い釣行スタイルなのです。


この大磯の地は東海道の宿場町として古くから栄え、明治以降は海と山に面した風光明媚な保養として人が集まる土地でした。また当地は明治期に日本で初めて海水浴場が開設された場所とされ、当時海水浴が行われていた照ヶ崎の磯場への入り口には、それを示す石碑が設置されています。

照ヶ崎海岸
住所:神奈川県中郡大磯町大磯

現在は照ヶ崎を含む漁港西側は遊泳禁止となっていますが、東側は夏場に海水浴場として開放され多くの人で賑わいます。

大磯海水浴場
住所:神奈川県中郡大磯町大磯

古くは動物の骨や角で作られた和製擬似餌「弓角」で遊ぶ

この海岸で楽しむのは「サーフトローリング」という釣り方。トローリングは船の動力でルアーを引っ張ってマグロやカジキを狙う釣り方ですが、それをサーフ(砂浜や海岸)から行うため、そう呼ばれています。

使用するのは「弓角(ゆみづの)」と呼ばれる全長5〜7cmのハリが付いた樹脂片。1500年以上前に生まれたとされる日本古来の擬似餌で、獣などの骨や角を材料に作ったのが起源とされています。

これに糸を結んで引っ張ると、水の抵抗を受けながら海中で回転し、逃げ惑いながら泳ぐ小魚の姿を偽装できます。

元々は船で引っ張っていましたが、それをオモリに繋いで砂浜から遠投し、リールで糸を巻き取りながら魚を狙う釣りが定着。現在では日本各地で楽しまれており、なかでも大磯〜小田原にかけての西湘地区や駿河湾では、根強い人気があります。

広大な砂浜でひたすらフルスイング! 波間を割ってワカシ登場!

東の空がうっすらと明るくなる頃に照ヶ崎へと続く階段を降り、漁港西側の海岸を歩きます。15分ほど歩いて周囲に釣り人がいないエリアで釣り開始。「投げ竿」と呼ばれる遠投を得意とする専用竿に大型のスピニングリール、糸の先に27号(100g程度)のテンビン付きオモリを結び、そこに別の糸を結んだ弓角を装着します。

釣り方はとにかく遠投して巻いてくるだけ。実にシンプルですが、熟練者は弓角が泳ぐ速度や水深を調節して魚が泳いでいる層を探り当てます。狙えるのはソウダガツオやワカシ・イナダ(ブリの若魚)サバといった回遊魚が中心で、時期や釣り場によってはヒラメやサワラ、カマスなども掛かってきます。

当日は南風が正面から吹いていて、風でオモリが押し戻されて飛距離が稼げませんでした。なかなかアタリが出ない時間が続きます。それでも挫けて投入を止めるのは厳禁。回遊魚はエサを求めて泳ぎ回っているので、とにかく投げ続けて魚群との遭遇率を高めます。

太陽が昇ってくると次第に暑くなってきますが、足元を波が洗って実にいい気持ち。大人になってからは、もっぱらこのスタイルが、私の海水浴となっています。

開始から1時間ほど投げ続けたときのこと、水面からやや沈めた層を引いていたところ「ブルルルルッ! ゴンッ!」という感触が手元に伝わります。ここで慌てず、それまでと同じようにリールを巻くのが大事。慌てて竿を煽ったり、巻き取り速度を変えるとハリが外れて取り逃してしまうからです。

打ち寄せる波の白泡の中から顔を出したのは25cmほどのワカシ。いわば子どものブリで、これが40cm以上になると「イナダ」、60cm以上になると「ワラサ」と呼び名が変わり、80cm以上に育ったものがようやく「ブリ」と呼ばれます。

関西では「ワカシ」を「ツバス」、「イナダ」を「ハマチ」、「ワラサ」を「メジロ」と呼び、そのほかにも多数の地方名が存在します。

ようやくの釣果に気を良くして再び投げ続けると、20分ほどして同サイズを確保。事前の情報ではサバも回遊していると聞きましたがこちらは不在のようで、それからさらに1時間ほど粘ってもアタリはありませんでした。

開始から2時間半ほど投げ続けたところでタイムアップ。この日の仕事に向かうため、竿を仕舞って砂浜を歩いて戻りました。

少々早起きが必要ではあるものの、日中の暑さを避けられ、朝の体操気分で出かけられます。エサ代や船代もかからず、道楽が過ぎて身を持ち崩す心配もありません。

個人的に久々のサーフトローリングでしたが、これから秋にかけて出かける機会が増えそうです。

[All photos by オオモトユウ]


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