エコツーリズム大賞受賞・日本最後の秘境「乗鞍山麓 五色ヶ原の森」でサステイナブル旅を
こんにちは、絶景ハンターのまゆみです。
みなさん、苔の絶景スポットと言えば、どこを思い浮かべますか?
世界遺産の屋久島や白神山地、信州白駒の池、青森の奥入瀬渓流、京都の苔寺など……数え上げたらキリがないですね。
そうしたなかで、苔好きの筆者が強くおすすめするのが奥飛騨地方にある乗鞍山麓「五色ヶ原の森」。日本最後の秘境とも噂されるこの深い森は、苔好きな人にもそうでない人にも必見です。
エコツーリズム大賞受賞!「乗鞍山麓五色ヶ原の森」とは
富山県、新潟県、岐阜県、長野県の4県にまたがる北アルプス。その最南端にそびえる乗鞍岳の北西山麓およそ3,000haに広がる森林地帯が「五色ヶ原の森」です。このほぼ全域が中部山岳国立公園に指定されています。
古くから霊峰として俗人を寄せつけなかった「乗鞍岳」。近代に入りようやく登山道が整備されると、五色ヶ原の森も登山客で賑わいはじめます。
ところが、大正時代中頃より乗鞍スカイラインの前身となる登山道が整備され、昭和に入って観光道路として畳平まで車両通行できるようになると、旧来の登山道は廃れ、森の存在も人々の記憶から忘れ去られていくこととなります。
閉ざされた森が開かれたのは、2004(平成16)年7月。なんと平成に入ってからです。
持続的な自然環境の保全と利用の両立を目指し、丹生川(にゅうかわ)村(現 丹生川町、2005年に岐阜県高山市に編入)と高山市が協力して入山に関する厳格なルールを設けます。必要最小限の開発と入山規制を行うことで、昔ながらの原生的な自然が維持されることに。これが「日本最後の秘境」といわれるゆえんです。
昨今、観光においてサステイナブルツーリズムが注目されていますが、それに先んじたすぐれた取り組みとして2021年3月、環境省と日本エコツーリズム協会が実施する「第16回エコツーリズム大賞」の大賞にも選ばれています。
「認定ガイドつきエコツーリズム」と「森の案内人」
開山以来、入山者数の制限と認定ガイドつき有料ツアーの参加がマストとなっている五色ヶ原の森(ツアー実施期間は原則5月20日~10月31日、一部コース除く)。
その目的は「自然地域の過剰利用による自然破壊の防止や豊かな自然環境の保全、植生破壊の防止、来訪者の安全確保、さらには環境教育など」とされています。
戦後の高度経済成長以降、進展してきた旅行の大衆化(マスツーリズム)で、過剰に押し寄せる人・モノ・土地開発により自然破壊や環境汚染、観光公害が深刻化してきました。
こうした流れを受け、五色ヶ原の森では、受け継がれてきた偉大な自然を次世代へ継承しつつ、持続可能な地域社会を継続するために、行政と連携した「認定ガイドつきエコツーリズム」というスタイルを貫いています。
認定ガイドは、五色ヶ原の森を誰よりも熟知する「森の案内人」。森の存在を通じて自然の重要性、大切さなどを参加者へわかりやすく“翻訳”するスペシャリストとしての役割を担っています。
ガイドのクオリティを維持するため、定期的なガイド研修、コースパトロール・維持管理(補修メンテナンス)、モニタリングによる高山市との連携を図っているそうです。
前述のとおり、五色ヶ原の森では徹底した入山管理が行われています。関係車両以外は進入禁止、登山ルートはガイドの頭の中に叩き込まれ、目印や標識はほぼなく、素人目にはわからないようになっています。
また、コンセプトである「自然環境へ最大限配慮」したコース整備も特徴のひとつ。倒木や石を再利用した登山道、河川を生かしたマイクロ水力発電のほか、休憩所のトイレには微生物を使ったバイオマス浄化システムが採用されています。
さらに森の中の作業では重機を使わず、手動ウィンチなどを使って可能な限り人の手で作業するなど、既存の環境に負荷をかけない取り組みがなされています。
全6種類!五色ヶ原の森を堪能できるコース
さて、それではいよいよ五色ヶ原の森のトレッキングコースの紹介です。
用意されたコースは大きく6つ、1日がかりのロングコースと半日程度のショートコースが用意されています。
ロングコース(1日コース)
ほぼ1日がかりの、ややタフなロングコースは以下の3つ。それぞれに特徴があり、原生林か滝か湖沼か、何を優先したいかで決めることになります。
※所要時間は休憩時間を含みます。
※スタート地点まで専用車両で移動します。
※万一の場合に備えて、エスケープルート(緊急退避用ショートカットルート)も用意されています。
【1】ゴスワラコース
歩行距離:6.4km
所要時間:約8時間
標高:1,620m~1,920m
難易度:★★★★
※雪解けの都合、シーズン開始が遅れる場合あり
【2】カモシカコース
歩行距離:6.7㎞
所要時間:約8時間
標高:1,360m~1,620m
難易度:★★★
※管理道工事のため、2022/8/8~8/24は休業
【3】シラビソコース
歩行距離:7.3㎞
所要時間:約8時間
標高:1,360m~1,640m
難易度:★★★
上記、料金共通で大人9,000円、高校生以下5,400円(ツアー参加料金・保険料・消費税含む)
ショートコース(4時間~半日コース)
約4時間~半日がかりの体力的にやさしいショートコースは以下の3つ。
※シラビソショートコース、雌池布引滝コースはスタート地点まで専用車両で移動します。
【4】シラビソショートコース
歩行距離:4.4㎞
所要時間:約4時間半
標高:1,360m~1,640m
難易度:★★
料金:大人7,000円/高校生以下5,000円
【5】久手御越滝(くてみこしたき)コース
歩行距離:3.4㎞
所要時間:約3時間
標高:1,360m~1,500m
難易度:★★
料金:一人3,500円(子ども料金設定なし)
【6】雌池布引滝コース
歩行距離:2.0㎞
所要時間:約2時間
標高:1,360m~1,460m
難易度:★
料金:一人5,500円(子ども料金設定なし)
★その他、各ツアーの詳細は【公式サイト】をご参照ください。
参加者限定!非売品の特典ガイドブック
五色ヶ原の森の情報は、主に公式サイトや関連団体、自治体などの観光サイトに紹介される程度で、その詳細はほとんど出回っていません。
ところが、ツアー参加者には、もれなくコース別特典ガイドブックがもらえます。専門家監修のもと、参加したコースにまつわるさまざまな情報やエピソードが詳細かつコンパクトにまとめられていて、森への理解をいっそう深めてくれます。
※久手御越滝コース、雌池布引滝コースには特典ガイドブックが含まれません。
五色ヶ原の森のおすすめポイント
次に、全体を通した五色ヶ原の魅力についてご紹介します。
五色ヶ原の森を語る上で欠かせないのはやはり“水”。乗鞍岳の雪解け水がいたるところで伏流水となって湧き出し、それが沢や滝を生んで森を形作っています。
溶岩台地の上に築かれたこの森は、地下に幾重もの水脈が張り巡らされていて、耳をすませると大地の隙間から水のせせらぎが聴こえてきます。
伏流水は水蒸気となって森を包み込み、大地や木々は深い苔に覆われています。
その姿は屋久島や白駒の池にも匹敵するモフモフっぷり!まるでクッションのようなフカフカの苔を体験できます。
山の伏流水で生まれた美しい清流には、遠目で見てもわかるほど、天然イワナがウヨウヨ泳いでいます。
思わず捕まえたくなりますが、森の中は禁漁区のため愛でるだけで我慢しましょう。
標高の高い五色ヶ原の森、もちろん季節に応じた高山植物や山野草、きのこ類なども楽しめます。ガイドの方がいろいろ教えてくれますよ。
ちなみに、ゴスワラコースには通常標高1,600m以下にしか生息しないはずのクロベの木がそれ以上の高い標高でシラビソなどと共存しています。そんな自然のミステリーが楽しめるのも五色ヶ原の魅力のひとつです。
最後は野生動物。森には当然、ツキノワグマが生息しています。森の中で爪痕のついた木々や道端のフンを見かけるとさすがにゾッとします。
とはいえ、熊は元来臆病な生き物。人の気配を察すれば逃げていくことがほとんどで、少なくとも五色ヶ原の森では熊に関する事故は起こっていません(ガイドは、必要に応じて熊よけの森林香を炊いてくれます)。
熊以外にはリスやニホンカモシカ、オコジョやヤマネなどが生息してるほか、耳を澄ませばさまざまな野鳥のさえずりが聴こえてきます。
帰りはぜひ奥飛騨温泉郷で足休めを
トレッキングを締めるのはやっぱり温泉!
五色ヶ原の森が位置する奥飛騨地方もまた温泉の里。車で10分のところにある平湯温泉は、足休めに最適です。
乗鞍山麓にある平湯温泉は、奥飛騨温泉郷の中でもっとも歴史が古く、かつて戦国武将や大名、歌人なども通った湯治場として知られています。
平湯温泉には20数軒の宿と40以上の源泉がありますが、その中には無料で楽しめる公共の温泉・足湯も用意されています。
こちらは平湯温泉街に入ってすぐ、合掌造りの建物が特徴の平湯民俗館に併設された日帰り温泉「平湯の湯」。
源泉掛け流しの野趣溢れる露天風呂で、トレッキングで疲れたからだを癒やすことができます。
男女別で脱衣所も用意されていますが、中でからだを洗う場所やシャワー・水道などはないのでご注意を。
・名称:平湯の湯 平湯民俗館
・住所:岐阜県高山市奥飛騨温泉郷平湯温泉
・地図: ・アクセス:JR高山駅より濃飛バス「新穂高温泉」行乗車、「平湯バスターミナル」下車で徒歩5分。車の場合、高速高山ICあるいは松本ICから国道158号経由で約1時間。
・営業時間:6:00~21:00(夏季)/8:00~19:00(冬季)
・電話番号:0578-89-3339
・料金:寸志(300円ぐらい)
・公式サイトURL:http://hirayuonsen.or.jp/hot_springs3.php
日本最後の秘境「五色ヶ原の森」でサステイナブルツーリズムを
時代に先駆け、徹底した入山管理と規制で自然保護と持続可能な地域社会を育んできた五色ヶ原の森。
訪問のハードルは決して低くないとはいえ、ミステリアスな秘境の森に魅せられるとともに、その取り組みに共感して訪れる人が後を絶たないのも事実です。
ぜひ「森の案内人」と楽しく会話を重ねながら、日本最後の秘境といわれる五色ヶ原の森でサステイナブルツーリズムを楽しんでみませんか?