地下鉄Bank駅から地上に出る。目前に広がるのは、銀行や証券取引所などが集まる世界屈指の金融センター「シティ・オブ・ロンドン」の街並みだ。

そこから歩いて10分ほどのところに、今回の舞台「オールド・ビリングスゲート」はあった。

テムズ川に面した屋外スペースからは、左にタワーブリッジ、右にロンドンブリッジを眺めることができる。正面にそびえ立つのは超高層ビル、ザ・シャード。こうして記事を書きながら当時の記憶を呼び起こすだけで、本当にため息が出てしまうほど贅沢な立地だった。

2月中旬、そんなロンドンの中心へ、はるばる日本からやってきた人がいた。

あれから7年。いま、福島で起きていること

この場所で開かれたのは、化粧品ブランドLUSHが主催する「」。同ブランドが商品の製造を通じて解決しようとしているあらゆる社会問題を発信するイベントだ。

メインステージでは、いくつかの講演やパネルディスカッションが行われたのだが、その中のひとつが『フクシマから7年:日本の原子力事情』をテーマとしたもの。「原子力」を共通点に、日本国内で異なる活動を続ける3団体から6人が招かれ、福島の現状を世界へと訴えかけた。

ここでは、6人のうち特に細かく話を伺えた2人にフォーカスして紹介したいと思う。

左から平井有太さん、石丸偉丈さん。

多くの市民を巻き込みながら土壌の放射線量を測定し、結果をHP「みんなのデータサイト」で公開する活動を行なっている。

2年半をかけて採取したのは、なんと東日本3,400ヵ所の土。取り組みは、誰に強制されるわけでもなく、自らの意志によるものだ。

土壌1kgあたりにどの程度の放射能が含まれているか、そしてそれがどのように経年変化していくかを示した「放射性セシウム汚染100年マップ」の制作も活動の一環。

彼らの最大の目的は、東日本に広がる汚染状況を可視化することにある。

「自分たちの活動を政府に知ってもらい支援を促す、ということは直接的な目的ではありません。結果的にそうなることもあるかもしれませんが、道のりはかなり長いので……。

どちらかというと、自分たちの生活の安全のため。ちゃんと測ると、いわゆる『ホットスポット』は確実に存在しますから。

特に私たちのような大人ではなく、子どもを守る意味合いが強いです。土遊びだってするし、ちょうど砂埃を吸ってしまう背丈でもある。だからこそ、自分たちの生活圏内でどこが危険であるかをしっかりと把握する必要があります」

 

話を聞いていて、頭の中に「?」が浮かんだ。そもそも、そうした活動は政府が取り組んでいるわけではない?

 

「国や自治体による測定は『空間線量』だけでその基準も曖昧。チェルノブイリでも、ちゃんと土壌の測定がなされています。私を含めて活動しているみんなが素人ですが、土壌を測ることは本当に基本だと思っています。

確かに空間線量は目安にはなる。でも、風や雨の影響で結果は大きく変わります。とにかく私たちは土壌の汚染を把握したい。だから自分たちでやるしかないんです」

ショッキングな内容は続く。

「汚染された土が入れられたフレコンバッグというものが、街のいたるところに置かれている状況です。その数、1000万以上。ひとつあたり1トンの汚染土壌が入っていると言われていて、線量計を近づけるとものすごく高い数値を示します。

フレコンバッグは、子どもが遊んでいる公園のすぐ裏にも置かれていたりする。これが福島の日常なんです。本当の意味で汚染を取り除くことはできないので、そうやってどこかに集めるしか方法はないのかもしれませんが……。

とても根深く、解決まで相当な時間がかかる問題です」

日本に住んでいてもなかなか耳にしないリアルな情報を、遠く離れたロンドンで知ることになった状況に違和感を覚えつつ尋ねてみた。

海外でこうした情報発信をすることの意義をどのように感じているのか——。

「正直言って、一連の問題は日本ではすでに忘れ去られてしまっていると思います。

放射線量は測らなければ分からないし、情報に触れさえしなければ問題があるかどうかも分からない。見ようとしなければ見なくて済むんです。

そうしたことが、汚染がある福島県内でも起きつつあります。つまり、『発信したところでいちいち聞いてくれない』『もうこの問題を考えたくない』と。情報が飽和しすぎたのかもしれません。

でも、世界にはまだまだ情報が伝わっていない。国内のことだとあまり興味がなくても、海外のことであれば『へえ、そうなんだ』と思うことってありますよね?

外へ向けて一生懸命伝えていくなかで、結果的に日本の人たちにも知ってもらえたらいいなと思っています」

僕はここで反原発を声高に叫びたいわけではないし、こうすべきだと主張を述べられるほどの知見も持ち合わせてはいない。

ただこの日、ロンドンのど真ん中には、福島をはじめとする日本の原発問題を必死に伝えようとする人々がいた。

そのことは紛れもない事実だ。

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