最近、ひさびさに絵本を手に取りました。ちょっと不気味な木の絵が表紙に描かれた『夜の木』という絵本です。ざらざらとした漆黒のぶ厚い紙。ページをめくると、独特な懐かしい香りがしました。子供の頃だったら、きっとストーリーに注目したと思うのですが、私は本そのものの工芸品のような佇まいに惹かれてその絵本を購入しました。

どんな場所で、どんな人たちが作った絵本なんだろう。そう思って「タラブックス」という出版社の名前をネットで調べてみると、『』(玄光社)という本が見つかりました。その本を読んで、自分が大人になってもこの絵本に魅力を感じた理由がわかったのです。

一冊の本を作るために、ここまでする。

絵本が作られているのは、南インド・チェンナイにある「タラブックス」という出版社。『夜の木』は、日本語だけでなく、フランス語、ドイツ語、韓国語、スペイン語、イタリア語にも翻訳され、タラブックスのロングベストセラーになっている絵本なのだそう。

何より驚いたのは、本の作られ方。なんと手漉きの紙に、シルクスクリーン(版画技法の一種)によって一枚一枚手刷りで印刷されていて、それを職人が糸で製本していたのです。独特な香りの正体は、インクと紙。ぼこぼことした均一でない紙は、手漉きの紙だったからなのです。

機械で大量印刷できる時代に、こんなにもアナログな方法で一冊の本が作られているということに、電子書籍にはない「紙の本」の可能性を感じました。

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